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手術・治療方法のご案内

動脈瘤に対するステントグラフト治療

1. ステントグラフト内挿術の発展の背景

大動脈瘤の標準的な治療法は動脈瘤を切除し人工血管に取り替える方法(人工血管置換術)であり、この分野に於いて東京女子医科大学心臓血管外科教室は日本をリードする施設として三十年に渡り治療技術の確立に貢献して参りました。
手術技術の向上、人工血管の改良、人工心肺技術の確立によりこの十年でようやく満足できる安定した臨床成績を収めることができるようになりました。
一方でこの手術は、大きく胸を切る、人工心肺装置を使う、および手術中の輸血、低体温管理など患者様の体には大きな負担を強いることになり、脳血管や心臓に持病を抱える方、もともと肺や腎臓の機能が弱っている方や高齢である方にはお勧めすることができない欠点がありました。
このような大きな手術に体が耐えられない患者様を動脈瘤の破裂から救うためには新しい低侵襲治療の開発は必要不可欠であります。

2. ステントグラフト内挿術とは

このような背景のもと、近年、ステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair; EVAR) が新たな治療法として広く認知されるようになってまいりました。
ステントグラフトとは、人工血管(グラフト)に針金状の金属を編んだ金網(ステント)を合わせたものであり(図1)、大動脈瘤の内側にステントグラフトを挿入・留置し、瘤内の血流を遮断し破裂を予防することを目的とした低侵襲な治療法であります。

3.ステントグラフト内挿術のはじまり

それではまず大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術の歴史を勉強していきましょう。
1991年にParodiら[1]がアルゼンチンで腹部大動脈瘤に、次いで1994年にDakeら[2]が米国で胸部大動脈瘤に対しての臨床治療を報告したことよりこの治療が始まりました。
わが国では、1990年代半ばよりいろいろな施設で医師による手作りのステントグラフトを使用した治療法が実施されてきました。
当施設では1999年に初めて胸部大動脈瘤に対してステントグラフトの留置に成功いたしました。[3]しかしながら当時はまだ安全性、遠隔成績への不安など問題点を多く抱えた治療法であったため一部の限られた症例にのみ限定した術式でありました。
西欧では世界に先駆け1997年に初めて企業製ステントグラフトの臨床使用が認められ、以来臨床の現場で使われ続けた結果、従来手術と比べてより安全に、同等もしくはそれ以上の成績を出すことが可能であることが証明されました。
その結果、ようやく日本でも企業製ステントグラフトが有効な治療法として認められ、
2006年7月に腹部大動脈用のステントグラフトが厚生労働省より承認、次いで2008年2月に胸部大動脈用のステントグラフトが薬事承認を得ることができました。現在、日本では3種類の腹部用デバイスと2種類の胸部用デバイスが市販されております。

ステントグラフト

4.我が国におけるステントグラフト内挿術の実状

2009年現在、大動脈瘤に対するステントグラフト手術は、100以上の施設で腹部大動脈瘤が2000件、胸部大動脈瘤が800件程度実施されるようになりました。
ほとんどの施設で手術室にて覚ます程度の浅い全身麻酔か局所麻酔を併用して手術を行っております。当施設では手術の安全性を最優先と考え、可能なかぎり全身麻酔にて安全かつ痛みがない状態で手術を受けることをお勧めしております。
この手術は従来の胸やお腹を切る手術と比較して手術時間、麻酔時間が短く、手術中の出血量や輸血量は少なく体にやさしい手術です。
手術後間もなくお話ししたり、手術後6時間くらいからお水を飲んで食事をしたりすることが可能であるため、大幅に入院期間を短縮することが可能です。
また、初期成功率は95.2%と高く、いろいろな手術後の合併症の発生率も低くなっております。
このようにステントグラフト内挿術は極めて侵襲の低い治療法であって、高齢の方や他に大きな病気を抱える方には最適な治療法と考えられます。
しかしながら、長期的な有効性(20年以上の遠隔成績)及び若年者・結合織異常患者(マルファン症候群等)への安全性は確立していない点に注意し慎重に適応を判断していく必要があると考えております。
将来的には難しい形をした動脈瘤でも使用できる新しいステントグラフトが開発されたり、デバイスの供給や治療体勢の整備が進むことで動脈瘤破裂などの緊急事態への対応が可能になったりすると考えられております。

5.ステントグラフト内挿術の標準的術式

足の付け根を5センチ程度切ります。
その奥にある大腿動脈と呼ばれる下肢を栄養する血管を露出さます。
ガイドワイヤーと呼ばれる細い針金のようなものを足の付け根の血管から挿入し、ステントグラフトの進む方向を誘導します。(図2,3)

(図2,3)

プラスチック製の棒の先端に圧縮・装着されているステントグラフトを動脈瘤の近くまで進めます。(図4,5)

(図4,5)

ステントの上下をLanding zone(ランディングゾーン)と呼ばれる健康な大動脈に合わせて留置し動脈瘤の上下でそれぞれステントを風船で圧着し、大動脈に固定します。

動脈瘤へ血液が漏れ出ていないかを確認して治療が完成いたします。(図6,7)

(図6,7)

6.実際の入院では

手術日の一週間前に入院していただき術前検査を行います。これは全身をくまなく検査することで手術中、手術後の合併症の発生を予防するためです。手術後一週間目のCT検査にて問題が無い場合には10日目に退院可能となります。

7.  資格及び認定について

当施設は2007年にステントグラフト認定施設HA000001号を取得いたしました。

当施設は2007年にステントグラフト認定施設HA000001号を取得いたしました。

治療担当医師は日本心臓血管外科専門医、日本循環器専門医の資格を有し日本におけるステントグラフト治療のパイオニアである東京医科大学低侵襲治療センター、及びステントグラフト治療先進国であるスイスのチューリッヒ医科大学でステントグラフト治療に携わってまいりました。帰国後、当院にてステントグラフト治療を立ち上げ、現在は、腹部ステントグラフト指導医、胸部ステントグラフト指導医資格を取得し、既存のすべてのステントグラフトデバイスの治療資格を有しておりますので患者様の病態背景、動脈瘤の形状に最適なデバイスを選択することが可能であります。
また、心臓血管外科専門医、循環器専門医として大動脈手術チームの一員として手術、治療に携わっておりますので、ステントグラフト治療が難しい場合でも患者様の病態に合った最善の治療(大動脈手術、ステントグラフト治療、薬物治療)を提供できると考えております。

8. おわりに

現在、早稲田大学理工学部の研究チームと共同でナビゲーションシステム[4,5]を利用した新しいステントグラフトの手術方法を研究開発しております。これが実現いたしますと造影剤の使用を最小限にすることができ、腎臓に負担をかけずに治療をすることが可能となります。
当施設ではこの治療法をより多くの方々に提供できるようにがんばっておりますのでお困りのことがございましたら心臓血管外科、東(あづま)までお気軽にご相談ください。

1. Parodi, J.C., J.C. Palmaz, and H.D. Barone, Transfemoral intraluminal graft implantation for abdominal aortic aneurysms. Ann Vasc Surg, 1991. 5(6): p. 491-9.
2. Dake, M.D., et al., Transluminal placement of endovascular stent-grafts for the treatment of descending thoracic aortic aneurysms. N Engl J Med, 1994. 331(26): p. 1729-34.
3. 青見茂之、内川伸、小柳仁 :大動脈瘤に対するEndvascular surgeryおよびOpen surgeryによるstent graftの使用経験. 心臓外科学-The 21st Century-, 1999:p.211-215.
4. 青見茂之、斉藤聡、冨岡秀之、黒澤博身(東京女子医大心臓血管外科)、植松美幸、鈴川浩一、安藤隼人、原美紀子、梅津光生(早稲田大学理工学部)、伊関洋、中村亮一、村垣善浩(東京女子医大先端生命研)、西井規子、飯村浩(東京女子医大放射線医学):胸腹部大動脈置換術用の新しいナビゲーションシステムの開発と臨床応用(大動脈瘤ナビゲーション). 適応医学, 2007. Vol.10 (2): p. 9-13.
5. Gera Strommer, et al., Fluoroscopy-free navigation of Guided–Stent using Medical Positioning System and 3D Guided–IVUS (GIVUSk) image. International Congress Series, 2005. 1281: p.387– 392