腎臓がん

Kidney cancer

免疫療法

がんに対する免疫反応

私たちの体には、外から侵入した様々な異物や体内で生じたがん細胞等から体を守る仕組みがあり、それを免疫システムと言います。異物には微生物(細菌、カビ、ウイルス)、寄生虫、花粉や有害物質等があります。免疫がうまく働いていると様々な免疫担当細胞が異物排除に働きますが、過剰に働くと自分を攻撃する自己免疫疾患を引き起こすこともあります。

がん細胞に対しても免疫システムが働き、がん細胞を排除します。しかし、がん細胞はもともと自分の細胞から発生した細胞のため、強い免疫システムが働きにくく、また、がん細胞も免疫システムから逃れるために、様々な手段(免疫逃避機序)を用いて生き延びようとします。

最近、がんの免疫逃避機序の一つの免疫チェックポイント分子をブロックする薬(注1)が発売され、その効果から免疫療法が注目されております。この薬は直接がん細胞を傷害するのではなく、免疫担当細胞を介して初めて効果が出ることから、本来持つ免疫システムを高く保つことが大切です。

図1 がんに対する免疫と様々な免疫担当細胞

がんに対する免疫反応と免疫担当細胞は図1のようになります。
がん細胞には、胎児細胞や本来精巣などの特殊な組織しかない抗原や、異常な遺伝子が作る変異抗原が発現しており、がん抗原(注2)といいます。
免疫担当細胞であるNK(natural killer, エヌケー)細胞(注3)、γδ型(ガンマデルタ)T細胞やNKT(natural killer T, エヌケーティー)細胞(注4)による攻撃で傷害されたがん細胞由来のがん抗原(ペプチド)を、未熟樹状細胞が取り込み、リンパ節に移動して成熟樹状細胞になります。

成熟樹状細胞は取り込んだがん抗原の情報をT細胞(注5)に伝えるような形にして、MHC(主要組織適合性抗原複合体)クラスIとII上に乗せて提示します。
MHCクラスIIのがん抗原情報はCD4陽性T細胞に伝えられ、ヘルパーT細胞となり、CD8陽性T細胞の増殖や機能強化に働きます。
MHCクラスIのがん抗原情報はCD8陽性T細胞に伝えられ、CD8陽性T細胞はヘルパーT細胞の働きで細胞障害性T細胞となり、同じがん抗原をMHCクラスIに発現しているがん細胞を見つけて攻撃し、排除します。

しかし、がん細胞の中には、細胞障害性T細胞の標的となるがん抗原を発現していなかったり、がん細胞がMHCクラス Iを発現していなかったりと攻撃できない場合があります。NK細胞、γδ型T細胞やNKT細胞は細胞障害性T細胞とは異なり、直接がん細胞を見つけ出して攻撃し、排除します。

このように様々な免疫担当細胞が連携してがん細胞から私たちの体を守っています。

(注1)最近の研究で、がん細胞が免疫の働きにブレーキ(免疫チェックポイント分子)をかけて、リンパ球などの免疫担当細胞の攻撃を阻止していることがわかってきました。このブレーキを解除して、免疫システムが働けるようにする薬が免疫チェックポイント阻害薬です。現在日本では、ニイボルマブ(オプジーボ®、小野薬品工業)が悪性黒色腫と肺がん(非小細胞性肺癌)に適応承認されています。米国では腎細胞がんに対しても適応承認されており、日本でも承認に向けて治験が行われています。

(注2)がん抗原は、免疫担当細胞が正常細胞とがん細胞を見分ける目印で、攻撃の標的になります。タンパクの断片(ペプチド)、脂質、糖脂質、リン酸等が抗原となります。

(注3)NK細胞は、ミミズやヒトデ等の下等生物にもある免疫細胞で、私たちも生まれながらにして備わっている自然免疫という免疫システムを担当している細胞です。正常な細胞は攻撃しませんが、がん細胞やウイルス感染細胞を見つけると攻撃して排除します。

(注4)NKT細胞は、NK細胞とT細胞の両方の性質をもつ細胞です。脂質や糖脂質を抗原としています。

(注5)T細胞は脊椎動物がもつ高度な免疫システムを担う細胞です。T細胞はαβ(アルファベータ)型T細胞とγδ型T細胞に分かれ、αβ型T細胞はCD(シーディー)4陽性T細胞とCD8陽性T細胞に分けられます。主に、タンパク質の断片(ペプチド)を抗原としています。CD8陽性T細胞がCD4陽性T細胞の働きにより細胞障害性T細胞になります。

γδ型T細胞を用いたがん免疫療法

私たちは、腎癌に対する免疫療法として自己活性化γδ型T細胞を用いた免疫療法を行っています(図2)。

γδ型T細胞は、T細胞の一種で、細菌感染や原虫感染防御やがん細胞の排除の第一線で働いている細胞です。細胞障害性T細胞と異なり、γδ型T細胞が目印として攻撃するのは、がん細胞のピロリン酸系抗原という抗原です。
がん細胞は増殖が盛んなため、細胞内のピロリン酸が処理できずに蓄積しています。γδ型T細胞はそのピロリン酸抗原を攻撃の目印にするので、がんの種類にかかわらず攻撃することができます。
また、細胞障害性T細胞が目印とする抗原が提示されるMHCクラスIが無いがん細胞も攻撃することができます。がん細胞を攻撃することで、新しいがん抗原が樹状細胞に取り込まれ、さらに強固に免疫システムを働かせることが期待できます。

図2 自己活性化γδ型T細胞を用いたがん免疫療法

実際の治療では、まず末梢血単核球採取を行います。成分献血と同じ原理で、末梢血から単核球(リンパ球)を1時間ほどかけて約1リットルの血液から採取します。通常1週間空けて2回採取し、すぐに培養を開始するか、使用するまで液体窒素タンクに凍結保存します。
採取したリンパ球を東京女子医大病院細胞加工室(厚生労働省施設届出済)で約2週間培養して、自己活性化γδ型T細胞にし、品質検査に合格したものが出庫されます。細胞培養と品質検査は、東京女子医大病院輸血・細胞プロセシング部の専任培養師によって行われます。
自己活性化γδ型T細胞は、月1回外来で投与されます。1回のリンパ球採取で2回分の治療ができ、1コースが2回のリンパ球採取と4回の治療になっています。

現在この治療は自費診療で行っており、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づいて、東京女子医大病院認定再生医療等委員会の審議のもと、厚生労働省へ届けております(計画番号PC3140579、平成27年11月24日受理)。