東京女子医科大学病院整形外科 整形外科手術
金谷先生in台湾

日本脊椎脊髄病学会
Asia Traveling Fellowship報告

-台湾・ベトナム紀行記-

H5年入局 東北大学卒業 講師 金谷 幸一
専門分野:脊椎脊髄外科、骨粗鬆症、骨代謝疾患

【はじめに】

このたび2009年11月9日から2週間、日本脊椎脊髄病学会からの派遣で、 台湾とベトナムの多くの病院を訪問してきました。短い期間ではありましたが、 渡航前には想像もつかなかった貴重な経験ができたのでここに報告します。

【台湾訪問】

台湾訪問では、National Cheng Kung UniversityのRuey-Mo Lin教授がホストでした。 Lin教授のグループのKuo-Yuan Huang先生が、かなり綿密にスケジュール組んでくださいました。 少々タイトなものでしたが、日本にも懇意の先生方をもれなく訪問できるようにしてくださいました。 最初の訪問都市のTaoyuan市ではMin-Shen General HospitalのPQ Chen教授にお会いしました。 予定されていた手術がキャンセルになったため、スタッフのTing先生から、外傷性椎体骨折の 自検例について話を聞きました。またChen教授からも自身の開発した人工椎体について話を聞きました。 つぎに台湾新幹線に乗ってTainan市に移動し、Natieonal Cheng Kung UniversityのLin教授にお会いしました。 先生は3つの手術を予定して下さり、その手術に参加することができました。「ちょっと多かったかな」 と言いながら、先生はペースを崩さず、淡々と進めていらっしゃいました。また今回の立役者Huang講師と 教室の研究についてディスカッションしました(写真1)。

次にKaohsiung市に移動しました。 Kaohsiung Medical UniversityのYen-Mou Lu先生 にはナビゲーションシステムを利用した手術の見学と研究室紹介をして頂きました。 またChang Gung Memorial HospitalのI-Jan Kao准教授には症例紹介をしていただきました。 台湾で4つの施設を回わり、それぞれの施設で講演の機会を得ました。 私は"Low parathyroid hormone levels in hemodialysis patients result in bone graft failure after posterolateral fusion"という演題名で、 血液透析患者の脊椎手術における、骨癒合と副甲状腺ホルモンの関係についての講演をしました(写真2)。 透析患者は台湾でも最近増えていて整形外科領域でも問題になってきており、 大変興味があると言ってくださいました。また、それぞれの施設でホストの先生方からも 講演をしていただきました。自分たちがやっていることをしっかりアピールし、 それに対する意見を聞くという彼らの姿勢に感心しました。台湾で治療対象になっている年齢層や病態、 患者さんと医者を取り巻く環境など日本に似ているところが多いと感じました。

今回訪問した先生方は、日本への留学経験があり、日本の著名な先生方を師匠と 仰いでおられました。そのためか、見学させていただいた症例に対する手術適応や手術方法の考え方は、 共感できるところがたくさんありました。そしてその先生方が台湾での脊椎外科の基礎を作ってこられたこと、 そして指導を受けた脊椎外科医が台湾中で活躍し始めていることがわかりました。 また医療を取り巻くシステムはアメリカに似ているところも多く、合理的に医療をしている様子がわかりました。 最終日はLin教授が頼んでくださった観光協会のガイドの方にTainan市を案内していただきました。 Tainan市は台湾発祥の地で、いたるところに日本との関係の深さを物語るものが残っていました。 詳しい説明を聞きながら観光もできて有意義な時間をすごせました(写真3)。

【ベトナム訪問】

ベトナムでは、Ho Chi Minh市に1週間滞在しました。台湾では移動々々の毎日でしたので、 余裕をもって研修ができました。ホストはHospital for Traumatology & Orthopaedics Ho Chi Minh Cityの Vo Van Thanh教授でした(写真4)。台湾でお会いした先生方はみなThanh教授のことをご存知で、 先生の交流の広さに驚きました。ここは整形外科の専門病院で手術室が9つあります。 定例手術が1日約30件(うち脊椎の手術は約8件)、夜間の救急手術が20~40件あります。 病院は築40年くらいの代物でお世辞にもすばらしいとはいえません。病室にはめいっぱいベッドが入っていて、 1つのベッドに2人寝ていたりします。また廊下にもストレッチャーが出ていて、 そこも立派な病床になっていました。脊椎のグループは2つあって、Thanh教授のグループは結核性脊椎炎、 強直性脊椎炎、側弯症を多く扱っています。結核性脊椎炎は1週間に1,2例の手術が行われていて、 われわれも滞在期間中に3例の手術に立ち会いました(写真5)。

手術は体位変換をすることなく側臥位で前後合併手術を行うもので、後方からスクリューを用いて矯正固定し、 そのまま前方除圧固定を行ないます。かなり手馴れていて手術は3~4時間で終わってしまいました。 結核性脊椎炎は、日本では栄養状態や衛生状態がよくなり、予防接種も行われているため、 現在ではほとんど診ることがなくなった病気ですが、ベトナムでは貧困のためにそのような環境が整っていないため、 まだまだ多いということです。側弯症は、日本では検診システムもあって早期発見、早期治療も可能になり、 重症化してから手術する症例は少ないですが、ベトナムではそのようなシステムはなく、 またこれらの病気がわかってもお金がなく、周りの人に寄付をいただいてから治療を受ける人もいるそうです。 そんな中、Thanh教授のグループは、今回手術に立ち合わせていただいたLy先生を始め、 ほとんどのスタッフが日本やアメリカへの留学経験があります。また海外からもDr.を招聘して手術をしていただき、 それを見学しているそうです。彼らの意欲のみならず知識や技術には目を見張るものがありました。 日本と違い現在でも症例数が多い彼らは、結核性脊椎炎に対する治療法をどんどん進化させていました。

Ho Chi Minh市に着いて驚いたことはバイクの多さです。 台湾でも驚いたのですがその比ではありませんでした。1車線に5,6台が並走、 それが縦に10列くらいは当たり前です。家族4人で乗っている光景もよく見かけました。 最終日には、Thanh教授が手配してくださったメコンデルタツアーにも行きました。 自然の雄大さはすばらしかったです(写真6)。



【最後に】

今回Asia Traveling Fellowshipに参加して感じたことを一言で言えば、 「我々はこのままではいけない!」ということです。日本の脊椎脊髄外科を作ってこられた先人の努力あって、 日本の現況があるのは言うまでもありません。今回訪問したベトナムの病院は、 どこに行っても先進的な治療が受けられる日本とはまったく状況は違います。 しかし病院の先生方は、外の施設に積極的に手術を見学しに行き、 少ないチャンスを確実に自分たちのものにしていました。 私を含め日本のDr.は指導者が身近にいるという恵まれた環境に慣れすぎて、 日々貴重な経験をしているはずなのに漫然と日々を過ごしてはいないでしょうか? 私事ですが、入局した時の主任教授である伊藤達雄先生(現名誉教授)が医局員全員にプレゼントしてくれた著書に 「飛耳長目」とサインして下さったことを思い出しました。 これは「外にでて見聞を広め、物事を鋭く観察することの大切さ」の教えです。 初心を忘れていたことを反省し、この貴重な経験を無駄にしないように日々精進して参りたいと思います。

最後になりましたが、このような機会を与えてくださいました日本脊椎脊髄病学会および 会員のみなさま、私の留守中奮闘してくださった大学医局員のみなさまに深く感謝申し上げます。

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