統合医科学研究所

 Tokyo Women's Medical University Institute for Integrated Medical Sciences (TIIMS)

 

  


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研究紹介
                
 全ゲノム・エクソンシーケンスによる腫瘍関連遺伝子の解明 〔古川徹〕

 次世代型シーケンサーと呼ばれる大規模並列型DNA塩基配列解析装置は1回のランで100Gb程度の塩基配列情報を明らかにすることができ、ヒトゲノム3Gbを優に越える規模の配列情報が得られる。疾患関連遺伝子の解析においてはゲノム中の遺伝子エクソン部分を抽出して解析するのが効果的であり、そのような解析は全エクソン解析と呼ばれている。我々は腫瘍性疾患関連遺伝子の解明を全エクソン解析を主体とした方法により行っている。最近の成果である、膵管内乳頭粘液性腫瘍における特異的遺伝子変異の同定について紹介する。
 膵管内乳頭粘液性腫瘍は一般的な膵臓がんである膵管癌とは異なる特徴を有する膵腫瘍であるが、特異的な遺伝子異常については知られていなかった。我々は外科的に切除された膵管内乳頭粘液性腫瘍の凍結組織標本から腫瘍細胞と非腫瘍細胞を分離採取しDNAを抽出して次世代型シーケンサーで全エクソン解析を行い、これまで知られていなかった腫瘍特異的遺伝子異常を明らかにし、中でもGタンパク共役受容体(GPCR)信号伝達経路の構成分子であるGαタンパクをコードする遺伝子であるGNASが高頻度に突然変異を起こしていることを見出した。GNAS変異は膵管癌では認められず、また、GαやGPCR関連分子は膵管内乳頭粘液性腫瘍で強発現しており、GPCR経路異常が膵管内乳頭粘液性腫瘍の発生進展に特異的に関与していることを明らかにした(Furukawa et al .Sci Rep 1:161,2011)。
 下図は膵管内乳頭粘液性腫瘍(左端組織像)におけるGα(中央)とその下流分子であるcAMP依存性キナーゼによるリン酸化基質(右端)の発現を免疫組織化学法でのDABによる茶褐色発色により示したもの(Sci Rep 1:161,2011より改変引用)。
                                   
  



 小児神経疾患感受遺伝伝子研究 〔山本俊至〕
 
 ヒトゲノムプロジェクトは終了して10年となるが、未だに機能がわからない遺伝子が多く存在しており、原因不明の遺伝性疾患が多く存在する。かつてはゲノム研究の手法として家系発症例に対する連鎖解析や、大規模サンプルを用いたゲノムワイド関連解析、いわゆるGWASが隆盛を極めたが、これらの方法で得られる結果はどちらかと言えば、表現型への寄与度が低い。そして希少疾患や孤発例に対しては有効な解析方法ではなかった。
 しかし、この10年間に、マイクロアレイ染色体検査による微細染色体構造異常の解析や、次世代シーケンサーによるエクソーム解析などの技術が開発され、これまで解析対象とならなかった希少疾患や孤発例がにわかに注目されるようになってきた。実際それらの疾患において、これまでわからなかった新しい知見が続々と明らかにされ、ゲノムに関する新しい知見が急速な勢いで増えている。ゲノム異常によるヒトの表現型は小児において顕著に表れる。特にヒトの脳は多くの遺伝子が発生や機能に関わっているため、未だに原因不明の遺伝性疾患が多い。
 本研究では、小児の神経疾患を対象として疾患感受性遺伝子を明らかにする目的でさまざまな手法を用いた解析を行っており、実際に多くの知見を見出してきた。機能が明らかでないゲノム領域や遺伝子に対しては、モデル動物や疾患iPS細胞による病態解析を行っている。


  CGH




 ヒト疾患iPS細胞を用いた疾患病態研究 〔下島圭子〕

 先天性小児神経疾患においては、疾患の原因器官である脳は画像検査以外には脳組織を直接調べることができない。そのため、細胞株やモデル動物を用いた病態解析が行われるが、希少な疾患において原因と考えられる遺伝子変異が同定されたとしても、モデル動物において動物種の違いから表現型の再現が認められない場合や、モデル動物での遺伝子ホモグロが存在しないため解析ができない場合がある。原因と考えられる遺伝子変異が本当に中枢神経における臨床症状を引き起こしているのかを証明するために、本研究では、先天性脳神経疾患の患者由来皮膚線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、さらに目的の細胞へ分化させることによって病態解析を行っている。

   iPS図20120522


 脳動脈瘤の感受性遺伝子の検索 〔赤川浩之〕

 脳血管障害は、現在、本邦での死因第3位にランクされている。種類別では、脳内出血が減ってきているのに対して、くも膜下出血の割合が増加の傾向にある。これは、高血圧症の治療普及により脳内出血は減少したが、くも膜下出血の発症数や死亡数は昔と殆ど変っていないということを反映している。この点は、脳卒中診療における大きな課題である。また、くも膜下出血は手術で救命しえても意識障害や片麻といった重度の後遺症を残すことも少なくなく、出血前診断・治療に対する社会的要請が高い疾患のひとつといえる。くも膜下出血は、8割以上が脳動脈瘤の破裂を原因とする。脳動脈瘤は遺伝的背景が高く、きょうだいに罹患者がいるとリスクが6倍高いと算出されている。喫煙などの環境要因も発症と関連しており、多因子疾患と呼ばれる範疇に属す。このような背景から、我々は、長年、この脳動脈瘤という疾患に注目し、感受性遺伝子の同定を目標に研究を継続してきた。ゲノムワイド連鎖解析や連鎖領域からのポジショナルクローニングといった研究でいくつかの有望な感受性遺伝子を報告している。近年、多因子疾患の研究でも、効果サイズの大きい稀な遺伝子変異(rare variant)の検索が注目されてきており、本研究所に導入されている次世代シーケンサーが威力を発揮している。同定された疾患関連rare variantの機能を解析することにより、未だ不明な点が多い脳動脈瘤の分子生物学的発生機序の一端が解明でき、ひいては新規治療法の開発への応用も期待される。

      


 カルシウムシグナリング異常による筋ジストロフィー発症機構の解明〔原雄二〕
 
 筋肉繊維は筋収縮に伴い絶えずダメージを受けている。正常な筋肉組織では(ⅰ)膜小胞タンパク質による損傷部位の修復、(ⅱ)筋肉に存在する幹細胞の活性化による筋繊維への分化、など内在性の修復機構が機能しており、筋収縮に伴うダメージから筋肉は守られている。一方、筋ジストロフィー症をはじめとする筋疾患は、筋繊維の形質膜の脆弱化、膜修復機構の低下等を介して引き起こされる。
 細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度制御異常は様々な病態機序に関与することが知られている。神経筋疾患においても、筋細胞における異常なCa2+濃度上昇が見られ、筋組織の脆弱化や繊維化との関連が示唆されている。一方で細胞内Ca2+ストア枯渇により活性化されるストア作動性Ca2+チャネル群の機能欠損により、ミオパチーが認められることから、正常なCa2+シグナリング経路が損なわれることによっても神経筋疾患は引き起こされる。しかしCa2+濃度異常から神経筋疾患に至る分子基盤は、その重要性にも関わらず未だ明らかではない。
 我々は特に筋ジストロフィー発症機構解明のため、(a)筋組織における筋細胞の病態に関与するCa2+チャネル群の同定とその制御機構の解明(b)筋肉幹細胞の活性化に必須なCa2+シグナリングの解明及び(c)上記研究により同定されたCa2+チャネル、あるいは結合因子群に関する分子遺伝学的解析を行っている。