医局員たちの話

 

サンフランシスコ留学記②

2014-06-29 11.52.59

 今回は海外での生活についてお話しします。海外生活のなかでも、その醍醐味と言えるのは異文化を体験することではないでしょうか。何事も体験してみないと分からないもので、実際に住んでみると自分がこれまで見聞きしていたアメリカのイメージとは全く違うと思う事がたくさんありました。もしくは、他人が経験して感じたり考えたりすることと自分が感じることとは違う、ということなのかも知れません。

 私のアメリカのイメージは、論理的、合理的で白黒をはっきりつける、なんでも過剰(ボディビルや甘すぎるお菓子など)、といったようなものでした。しかし、実際のアメリカは一定の部分において絶対の規則があるものの、それ以外の部分は相当にいい加減さを放置しているか、もしくは意識的にあいまいさを許容しています。具体的には、バーやレストラン以外での飲酒はかなり厳しく禁止されている一方で、ビーチや公園などビール飲んだら最高!という場所では酒瓶を紙袋のなかに入れればOKというような柔軟さがあります。ちなみに、着任当初は何も知らずビーチで普通にビールを飲んでいて、どうして皆が飲まないのか不思議に思っていたという失敗談があります。そういう意味では、最近の日本の方が強迫的かもしれません。また、年齢や人種などプライベートなことをまだ親しくない人とは話題にしないという礼儀は知っていましたが、サンフランシスコのように多民族社会になるとお互いが遠慮しているのか、クリスマス以外に生活で宗教を感じることはほとんどありませんでした。ハロウィーンもフェスティバルに近い感覚です。盆や正月、七五三、祈願などでしばしば神社にお参りする日本のほうがアメリカ人から見ると信心深いように見えるかもしれません。多民族を維持するための規則と柔軟性、そして隣人愛の精神と自由競争などいくつかのダブルスタンダードを包含しているのがアメリカという国です。

 サンフランシスコに特徴的な文化といえば、やはり自由な雰囲気です。アメリカは自由の国と言いますが、サンフランシスコは別格です。政治、人種、性、そして大麻において極めてリベラルであり、国内でも他の地域はもっと保守的です。理由はわかりませんが、政治の中枢である東海岸から大きく離れていることや、安定した天候と、肥沃な大地と海のおかげで生活が豊かであることも影響しているかもしれません。このような環境の下、ベトナム戦争に対する反対運動がカリフォルニア大学バークレー校から始まり、Appleも生まれましたのでしょう。そして、アメリカで初めて同性愛をカミングアウトした公職員が誕生したのもサンフランシスコです。

 同性愛を総称してLGBT (Lesbian Gay Bisexual Transgender)と言いますが、LGBTとその子供達の家族連れはよく見る光景で、そうなると私の感じ方も自然と変わりました。サンフランシスコにはPRIDEと称するLGBTのパレードがあります。ダウンタウンのマーケットストリートを何kmにも渡り様々な団体、組織、会社単位で人々がそれぞれの工夫を凝らした衣装で歩き、華やかなものです。警察はパトカーを、消防隊員は消防車を飾って参加するのには驚きました。今年一番人数が多かったのはApple、華やかだったのはタイレストランのドラッグクイーン。華やかではありますが、他国のLGBTパレードと異なりサンフランシスコのパレードは穏やかで、子供を含めた彼らの家族も一緒に参加しており微笑ましいものです。元からということではなく、昔はもう少し下品で裸で参加する人も多かったと言います。戦いの歴史が過ぎ、すでに同性愛が自然なこととなったためでしょうか。他国のパレードがまだ抑圧からの解放のエネルギーに溢れていることや、日本でも最近になってようやくLGBTのパレードが始まったことを考えると、サンフランシスコは世界で最も先進的な地域だと思います。DSM5でも、性同一性障害Gender Identity disorder は、性別違和gender dysphoriaと名称が変更されましたが、これは、性別の選択は個人的な意思の問題であって精神疾患が関与する問題でないという考え方が反映されているのでしょう。ゲイパレードに参加するといつも深い感動を覚えるのですが、それは、このようなアメリカの「個人の意思の自由」という価値観が社会で実現されているためなのだと思います。また、社会における多様性の範囲を、科学を超えて私たち自らの意思で決定できるという実感も、ゲイパレードが私を感動に導く理由の一つかもしれません。

 このような経験を通じて、人の精神の問題に医療がどのように関わるかを考える時に、生物学的な差異と同時に、私たちの社会における多様性をどこまでの範囲に社会自身が決定しているのかも踏まえなければいけないと考える様になりました。言い換えると、精神科の仕事は、科学と社会の双方について思索が深まり、仕事の内容も非常に多面的でやりがいがあるものです。是非、さまざまな興味を持つ若い人が参加してくれることを期待しています。

2014年10月03日 サンフランシスコにて 押淵英弘 記

 

 

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