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センター便り 2017年10月

2017.10sentahdayori9月末から急に朝夕の気温がぐっと下がりました。まさに「季節が動いた」という擬人的表現がぴったりはまる時期です。空の青さに深みが増し、キンモクセイの香りが漂うようになると、秋本番。一年で最もすがすがしい季節を迎えます。天高く、馬肥ゆる秋。食欲の秋。食べすぎに注意の時期です。食欲にまかせて食べるのではなく、「美味しいものを味わいながら少しいただく。」ことが食の基本だと思うようになりました。加齢の功徳でしょうか。

社会が進歩し、「安全」「安心」という言葉が日常的に使われるようになりました。日本は他の国々よりも安全だと言われます。海外に行くと実感するのですが、日本では金品を盗まれたり、他人から危害を加えられたりする確率は諸外国より明らかに低いと思います。日本国民の善良なこころの所産だと胸を張って思うのですが、それでも多くの日本人は自分たちの生活が「安心」ではないと思っているようです。その結果、「安全だが安心ではない」というような感情論が社会に蔓延しています。

どんな物事でもリスクがゼロということはありません。残念ながら、この不確実な地球の中では、絶対安全は絶対にないのです。ほんのわずかなリスクが存在していても安心できないのであれば、私たちは自動車にも乗れないし、道も歩けません。もちろん、安全を究極まで希求することはとても大切で、各職種の人々は安全性の向上に心血を注いでいるのですが、私たちが安心と感じるためは、リスクを理解することが必要になります。

「安全」は科学的に証明するべきものですが、「安心」は個人の心が決めるものであって科学では証明できません。まず「安全」が証明されることが前提、次にそれを正しく伝えることにより、我々の心に「安心」が醸成されます。したがって、「安全」を証明する立場にある人は、安全性の根拠を科学的に証明することと、それをわかりやすく社会に伝えるという2つのことをせねばなりません。「安全だが安心ではない」という意見が出たときに、「科学が風評に負けるのは恥」といった方がおられましたが、まさにその通りです。科学者はデータを出すだけではなく、それを正しく社会に伝え、浸透させることが必要なのですが、往々にしてこの点が軽視されているように思います。

私も、科学者のはしくれとして、正しい医学的エビデンスを証明することと、それを正しく社会に伝えること、その両方に尽力したいと思います。そして、それが社会に少しでも安心感を与えることにつながると信じたいです。

名月や 池をめぐりて 夜もすがら

芭蕉の句ですが、秋の夜長はこのような沈思熟考に最適の貴重な時間です。

これから朝夕は冷え込んできます。風邪を召して体調を崩されませんように。

2017年10月1日

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿