東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
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伸筋腱断裂

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関節の痛みや腫れの多い部位の一つに手関節があります。手関節は手の要の関節と言われ、手指の動きだけではなく前腕の動きにも大きく関与しています。手関節の関節破壊が進行すると関節の動く範囲が低下し、手を回せなくなる、握力が下がる、そして特徴的な尺骨の亜脱臼を認めます。リウマチ患者さんでは、ある日突然小指あるいは薬指と小指が伸ばせなくなることがありますが、これは滑膜炎によりいたんだ手指を伸ばす腱(伸筋腱)が、亜脱臼した尺骨の上を通過することで擦り切れるように断裂してしまうために起こります。「手が握れるから大丈夫」と放置しておくと人差し指の腱まで断裂することもあります。

 

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指が伸ばせないことで書字、洗顔やパソコンのキータッチなどに支障をきたします。当センターでは一本でも腱が切れた場合には、他の指の伸筋腱断裂を予防のためにも手術をお勧めしています。手術に際しては、腱の手術だけでなくその後の断裂予防のために滑膜切除、関節形成術(尺骨頭の突出をなくす)を併せて行います。

 

 

伸筋腱の構造・機能

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手関節には手指を伸ばすためのたくさんのすじ(腱)が通っています。通常、親指・中指・薬指に1本ずつ、人差し指と小指には2本ずつの腱があり、リウマチの炎症によりこの腱が切れてしまうと指が伸ばせなくなります。腱が切れる時に痛みを伴わない場合も多く、気づいたら指が伸びなくなっていたという患者さんも多くいらっしゃいます。腱断裂を早期に診断する簡単な方法としてEDMテストというものがあります。これは指を握った状態から小指だけをまっすぐ伸ばしてみて、うまく伸びない場合には小指の腱がすでに切れている可能性があります。

 

 

上:正常、下:小指の伸筋腱断裂の疑い

 

 

腱形成術・手関節形成術

腱は長期間の炎症により擦り切れるように断裂しているため、そのまま縫い合わせることはできません。残っている腱に縫い付ける「腱移行術」あるいは長掌筋腱という手首の腱を採取して移植する「腱移植術」という方法で腱を再建します。断裂している腱の本数が多いほど再建も困難で術後の動きも悪くなりますので、腱が一本でも切れた場合には放置せずに手術をお勧めしています。また腱の手術を行っただけでは将来的に再び摩擦を受けて再断裂する可能性がありますので、同時に手関節形成術を行います。当院では手関節形成術の中で最も安定した成績のSauve-Kapandji法を主に選択しており、その高い臨床成績を報告しています。

Association between position of the fixed ulnar head and carpal translocation after the Sauve-Kapandji procedure in patients with rheumatoid arthritis. Modern Rheumatology 2016;26(5):702-7

手術のながれ

手術は整形外科医による伝達麻酔もしくは麻酔科に一任して行います。手術を受ける前には外来にて血液検査、レントゲン撮影などを行います。手術の前日に入院(場合によっては当日入院も可能)します。

伝達麻酔は、エコーを併用して肩の周辺から麻酔薬を腕神経叢へ注入し腕全体を麻酔します。手首の背側を切開し、腱断裂の原因となっている変形を種々の方法で矯正したのち(関節形成術)、腱を修復・再建します。変形や腱断裂の程度にもよりますが、手術には通常1~3時間程度かかります。

手術翌日にはベッドから起き、歩くことが可能です。徐々に可動域訓練のリハビリを開始します。術後の経過にもよりますが入院は全日程で2~4日間程度です(御希望によって更に短縮することも可能です)。主治医の指示に従い慎重にリハビリを行います。腱を再建した場合は指のテーピングを術後1ヶ月半程度続けます。1~3ヶ月程度をかけて徐々に通常の生活に戻っていくことになりますが、抜糸は術後10日~2週間で行い、外固定は術後3週間程度で終了し、腱断裂に関与していない指は動かすことが可能ですので、その内容によりますが仕事や家事への早めの復帰も可能です。

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文責 王 興栄
2021年4月1日更新