東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
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生物学的製剤とは最先端のバイオテクノロジー技術によって生み出された医薬品です。生物の蛋白から作成しているため、生物学的製剤と呼ばれます。バイオ医薬品とか、バイオなどとも呼ばれています。関節リウマチの関節の炎症に大きく関わっている物質(例えばTNF-α[ティーエヌエフアルファ]やIL-6[アイエルシックス]と呼ばれる炎症性サイトカインといわれる分子)を標的として、その働きを止めるお薬です。

我が国では、2003年に関節リウマチに対して最初の生物学的製剤が承認されてから、現在まで8種類の薬剤が発売されています。発売順に、インフリキシマブ(レミケード®)、エタネルセプト(エンブレル®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、トシリズマブ(アクテムラ®)、アバタセプト(オレンシア®)、ゴリムマブ (シンポニー®)、セルトリズマブ(シムジア®)、サリムマブ(ケブザラ®)、オゾラリズマブ(ナノゾラ®)です。また、ジェネリック薬のようなバイオ後発品(バイオシミラー)として、インフリキシマブBS、エタネルセプトBS、アダリムマブBSの3種類が使用することが出来ます。

TNF阻害薬としては、レミケード®、エンブレル®、ヒュミラ®、シンポニー®、シムジア®、バイオシミラーであるインフリキシマブBS、エタネルセプトBS、アダリムマブBSの8種類が用いられています。一方、非TNF阻害薬には、IL-6阻害薬であるアクテムラ®とケブザラ®があり、T細胞選択的共刺激調整薬としてオレンシア®があります。

生物学的製剤は全て注射製剤であり、点滴か皮下注射により投与されます。また一部の薬剤は在宅での自己注射が可能です。それぞれの薬にはどの分子を標的とするか、メトトレキサート(リウマトレックス®)との併用が必須かどうか、点滴薬か皮下注射薬か、投与の間隔など、それぞれの薬剤の特徴の違いはあるものの、どの製剤でも関節の痛みや腫れを改善する効果、関節の変形・破壊を止める働きは、ほぼ同等であり、今までのお薬以上に優れているとされています。

生物学的製剤は、これまでどのような抗リウマチ薬による内服治療を行っても関節リウマチの病気の勢いを抑えることができなかった患者さんにとって、効果が期待できる夢のようなお薬なのです。IORRA調査の結果をみても、生物学的製剤を使用している患者さんの割合は増加傾向にあり、2023年現在、約40%の通院されている患者さんが何らかの生物学的製剤を使用して治療を受けています。

一般的には、十分量のメトトレキサートを中心とした抗リウマチ薬による内服治療を行っても炎症が抑えられない場合(例えば、関節リウマチの病気の活動性の強さをあらわすDAS28が3.2以上のときなど)が生物学的製剤を開始する適応となります。どの生物学的製剤も十分なメトトレキサート(リウマトレックス®)と併用することにより有効性は高まるとされています。生物学的製剤を使用することにより、関節リウマチの病気の勢いを低下させ、寛解や低疾患活動性の状態を目指せる・関節破壊を進ませない・身体機能障害度が悪化しない・社会活動や就労障害が進ませないなどの効果が期待できるのです。

効果が期待できる一方で、生物学的製剤を使用することにより、結果として強力な免疫抑制効果が起こり、メトトレキサートと同様に、入院加療を要するような重篤な副作用も一定の割合で起こるとされています。日本人の関節リウマチ患者さんに対する各生物学的製剤の使用成績調査でも、約5%程度の患者さんに入院加療を要するような重篤な副作用、特に重篤な感染症が起こっていることが明らかとなっています。特に肺炎や結核などの感染症には注意が必要であり、高齢者・身体機能障害が進行している(関節の変形が進んでいる)・呼吸器疾患の既往がある・糖尿病の合併がある・ステロイド薬を服用している・重症感染症や結核の既往がある・B型肝炎キャリアであるなどの患者さんでは、重篤な副作用がより起こりやすいことが明らかとなっており、これらの患者さんに使用する際には注意が必要です。

生物学的製剤の有効率は比較的高いとされていますが、それぞれの製剤で一部の患者さんには効果不十分であるといわれています。また、使用しているうちに徐々に効果が減弱する場合もあることも知られています。感染症やがんがあるために投与したくても投与できない患者さんがいることも問題点の1つです。

また、もっとも大きな問題の1つは、生物学的製剤の薬剤費が非常に高価であることです。生物学的製剤の薬剤費だけで、毎月おおよそ2~4万円(3割負担として)を支払い続ける必要があるのです。しかし、関節リウマチの治療がうまくいけば、関節の変形は防止され、関節手術の必要がなくなったり、寝たきりにならなくなったり、介護を受ける必要がなくなったり、さらに就労が可能となると期待されますので、長期的にみれば、将来的な医療費は軽減されるとも考えられます。

1)レミケード®

レミケードはTNFという炎症反応に関与する生体内物質の働きを抗体によって抑える抗体製剤です。2時間程度かけて点滴します。投与間隔は、初回投与後、2週後、6週後、その後は8週間隔が基本です。ヒトとマウス由来で遺伝子工学的手法を用いて作られているため、効果を弱める抗体が出現することがあり、メトトレキサート(リウマトレックス®)の内服が必要です。2009年から増量もしくは投与間隔の短縮が可能となり、効果減弱する割合は減っています。

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2)エンブレル®

エンブレルもレミケードと同様にTNFの働きを抑えますが、構造がレミケードとは異なる受容体製剤です。週に1回もしくは2回の皮下注射で投与します。一定の条件を満たす方は在宅注射が可能です。完全ヒト化製剤のためメトトレキサート(リウマトレックス®)は内服しなくても使用できます。しかし、エンブレルとメトトレキサート(リウマトレックス®)を併用したほうが、エンブレル単独に比べ骨破壊の抑制が強いことが報告されています。週1回25mg投与(通常用量の半量)の場合には生物学的製剤の中で安価に導入できるメリットもあり、当センターでは二番目に使用患者数の多い生物学的製剤となっています(2023年4月現在)。

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3)ヒュミラ®

ヒュミラはレミケードと同様にTNFの働きを抑える抗体製剤です。2週間に一度皮下注射します。一定の条件を満たす方は在宅注射が可能です。メトトレキサート(リウマトレックス®)の内服は必須ではありませんが、併用した方が骨破壊の抑制が強いことがわかっています。

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4)アクテムラ®

アクテムラはIL-6というTNFと同様に炎症反応に関与している生体内物質の作用を強力に抑制します。日本で開発された生物学的製剤で、投与は4週間に一回、約1時間の点滴です。リウマトレックスの内服は問いません。炎症反応を強力に抑え込むことで、感染症になった時の自覚症状、他覚所見が希薄になるため、感染の重症化に注意する必要があります。異常を自覚したら、軽度であってもすぐにご連絡ください。2012年の薬価改定で薬価が大きく引き下げられ、標準使用量では体重50kgの場合最も安価な生物学的製剤となりました。当センターではもっとも使用患者数が多い生物学的製剤です(2023年4月現在)。

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5)オレンシア®

オレンシアは2010年9月に発売がはじまった生物学的製剤です。他の生物学的製剤はサイトカイン(TNFやIL6)の働きを抑えますが、オレンシアは関節リウマチの発症に関与するT細胞の活性化を抑制することでサイトカインの産生を抑えます。関節リウマチという病気をより根本に近い段階から抑えることができる可能性が示唆されています。初回投与後、2週後、4週後に点滴投与(30分)し、以降4週の間隔で点滴します。

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6)シンポニー®

シンポニーは2011年9月に発売がはじまった最新の生物学的製剤です。ヒュミラやレミケードと同様にTNFの働きを抑える抗体製剤です。4週に1回の皮下投与で済むため、投与方法がもっとも簡便であることが特徴に上げられます。投与量の変更が可能なのもこの製剤の大きな特徴の一つで、状態に応じて標準用量の倍量である1回100mgに増量して使用することが可能です。

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7)シムジア®

シムジアは2013年にあらたに発売がはじまった生物学的製剤です。ヒュミラやレミケード、シンポニーと同様にTNFの働きを抑える抗ヒトTNFα抗体です。投与間隔は、初回投与後、2週後、4週後に1回400mgを皮下注射し、その後は2週間隔に1回200mgの皮下注射が基本ですが、症状が安定したら4週間隔で1回400mgを皮下注射することも可能です。抗体製剤ですが、Fc領域が除かれていて、PEG化されているために分子量が小さいことが特徴で、注射部位反応の軽減が期待されています。

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7)ケブザラ®

ケブザラはIL-6というTNFと同様に炎症反応に関与している生体内物質の作用を強力に抑制します。IL-6を標的としたアクテムラに次ぐ2剤目の製剤として、2017年に本邦で承認されました。ケブザラは、200mgを2週間に1回皮下注射しますが、患者さんの状態により150mgを2週間に1回への減量が可能です。リウマトレックスの内服は問いません。炎症反応を強力に抑え込むことで、感染症になった時の自覚症状、他覚所見が希薄になるため、感染の重症化に注意する必要があります。異常を自覚したら、軽度であってもすぐにご連絡ください。

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8)ナノゾラ®

ナノゾラは、「ヒト化抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤」であり、6番目のTNF阻害薬として、2022年に関節リウマチに対する治療薬として発売されました。日本初のナノボディ呼ばれる形をした製剤であるという特徴があります。1回 30mgの4週間間隔での皮下注射投与が可能であり、外来通院での投与が可能です

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9)バイオシミラー

バイオシミラーは、生物学的製剤の後発医薬品の総称であり、先発品の生物学的製剤(先行バイオ医薬品)のジェネリック医薬品のようなものです。現在、日本で使用可能なのは、レミケードⓇのバイオシミラーであるインフリキシマブBS、エンブレルⓇのバイオシミラーであるエタネルセプトBS、ヒュミラⓇのバイオシミラーであるアダリムマブBSの3製剤が関節リウマチ患者さんに対し使用することが可能です。バイオシミラーの薬価は、先発品の生物学的製剤(先行バイオ医薬品)の約40-60%程度と安価です。

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また過去のIORRAニュースでも生物学的製剤に関して、以下のような事項を取り上げています。
 
関節リウマチ患者さんの生物学的製剤中止について
生物学的製剤の投与間隔を延ばす事は可能か? 
生物学的製剤使用の有効性と他の併用薬の服用状況について 

文責 田中榮一
2023年10月11日更新