血管炎症候群

血管炎症候群は全身に張りめぐらされている血管の壁に炎症を起こし、さまざまな臓器障害を引き起こす疾患群です。血管炎症候群は炎症を起こす血管の太さで分類されます。大型血管(大動脈とその太い枝)に炎症を起こす疾患として、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎が、中型血管に炎症を起こす疾患として結節性多発動脈炎、川崎病が、小型血管に炎症を起こす疾患として抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管、免疫複合体性小型血管炎があります。さらに、ANCA関連血管炎には顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3つの疾患が、免疫複合体性小型血管炎には抗糸球体基底膜抗体病(抗GBM病)、クリオグロブリン血症性血管炎、IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)、低補体血症性蕁麻疹様血管炎(抗C1q血管炎)がそれぞれ含まれます。これらの疾患以外にも、10種類以上の疾患が知られており、その診断と治療には複数の診療科の専門家の協力が必要となることもしばしばあります。

東京女子医科大学では、当センターを含む6つの診療科(膠原病リウマチ痛風センター、呼吸器内科、神経内科、腎臓内科、皮膚科、病理診断科)が協力して、東京女子医科大学血管炎連携会議を結成し、血管炎疾患を総合的に診療する体制を整えています。

ANCA関連血管炎

血液中に抗好中球細胞質抗体(ANCA)と呼ばれる自己抗体(自分の体の構成成分に対する抗体)が出現し、各臓器の細い血管の炎症をおこす病気がANCA関連血管炎です。ANCA関連血管炎には、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3つの疾患が含まれ、我が国における患者数はそれぞれ、約8500名、2500名、1400名と報告されています。

症状

全身症状として発熱,全身倦怠感,食思不振,体重減少,筋痛,関節痛などが出現します。顕微鏡的多発血管炎は60から70歳台、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は50〜60歳台の発症が多いと言われています。

腎臓はANCA関連血管炎で最も障害されやすい臓器の一つです。初期には自覚症状は少なく、検診で血尿や腎機能低下を指摘され、受診の契機となる場合がしばしばあります。初診時には約半数の患者さんで血尿や蛋白尿が認められます。

皮膚では、下肢に紫斑(圧迫しても色が消退しない小紅斑)が出現し、触ると多少凸凹しています。また、網目状の模様を手足に認めることがあります。神経の血管に炎症がおよぶと、手足のジンジンしたしびれ、痛みを訴えたり、スリッパが脱げやすい、転びやすいなどの筋力低下の症状を訴えたりします。

眼や鼻にも症状が出る場合があります。眼の痛み、充血、視力低下、眼球が突出するなどの症状が見られます。耳では、耳閉感、中耳炎、難聴、耳鳴り、めまい、鼻では、副鼻腔炎、鼻閉、臭いのある鼻汁、鼻血、鼻の痛み、鼻の変形などが出現することがあります。

気管支・肺の症状として、空咳、血痰、喀血、ゼーゼーする呼吸音、声が嗄れるなどの症状が見られます。腹部(胃腸)の血管に炎症がおよぶと、腹痛、圧痛、下痢、下血などが出現します。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では、気管支喘息、好酸球性鼻ポリープ、好酸球性中耳炎、好酸球性副鼻腔炎などの既往、合併を認めます。

検査と診断

尿検査、血液検査、画像検査を行います。尿検査では、血尿・蛋白尿・円柱を認めます。血液検査では、貧血、血小板増多、赤沈亢進、CRP・血清クレアチニン上昇、ANCA陽性を認めます。EGPAでは好酸球が著しく増加します。また、単純X線写真、高分解能CT検査、MRI検査、超音波検査などによって、各臓器の病変の有無を調べます。わが国のANCA関連血管炎では肺の病変の出現頻度が高いため、極力、胸部単純レントゲン写真、胸部高分解能CTを撮影して、肺の状態を細かく評価します。

さらに、血管炎の症状が出ている臓器の状態を調べる検査(上部・下部消化管内視鏡、呼吸機能検査、気管支鏡検査、神経伝導速度、髄液検査、など)を行う場合があります。

血管炎の診断には、体の組織の一部を取って調べる検査(生検と呼びます)が非常に重要です。腎臓の血管炎が疑われる場合には、腎生検を行い、腎糸球体や尿細管の状態を調べます。皮膚に紫斑などの症状がある場合には、皮膚生検を行い、皮膚および皮下組織の血管の状態を調べます。下肢の痺れや運動障害がある場合には神経生検、筋生検を行い、神経や筋肉の血管の状態を調べます。

症状と検査結果を組み合わせて、3つのANCA関連血管炎のどの疾患かを診断します。血管炎と類似した症状を呈する疾患が多数あるので、同時にそれらの疾患でないことも確認します。

当センターでの治療

治療は血管炎で障害されている臓器の種類と程度、患者さんの全身状態などを評価した上で、「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017」(https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0094/G0000931)を参考に決定します。このガイドラインは、当教室の針谷らが中心となって作成したもので、どのように治療を選択するかがエビデンスに基づいて記述されています。初期治療(寛解導入治療と呼びます)には、副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬(主としてエンドキサン®)あるいはリツキサン®を使用します。血管炎の症状、検査の改善をみながら、ステロイドを計画的に減量し、エンドキサンからアザニン®またはイムラン®に切り替えて、治療を継続します。リツキサンを使用した場合は、リツキサンを6か月ごとに繰り返し、途中からアザニン®またはイムラン®に切り替えます。個々の患者さんの病気の強さ、合併症、既往症などによって、治療内容を調節します。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症による神経障害に対しては、ガンマグロブリン大量静注療法が用いられます。この治療によって、筋力が改善し、一部の患者さんではしびれ感も改善することが示されています。また、2018年5月から抗インターロイキン5抗体であるヌーカラが使用可能になりました(TOPIC参照)。

ANCA関連血管炎の患者様は複数の臓器の病変をお持ちですので、当科の主治医が、個々の患者様の病状に合わせて東京女子医大病院の診療各科と連携をとり、診断、治療、副作用の防止に当たっています。

TOPIC

2018年5月から、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対して抗インターロイキン5抗体であるヌーカラ®が保険診療で使用可能になりました。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の寛解期間の延長やステロイド減量効果が示されている薬剤です。ヌーカラは重症難治性好酸球性喘息に対して用いられてきた薬剤ですが、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では使用方法が異なります。

当センターの針谷は厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班の研究代表者を務め、日本の血管炎研究者とともに血管炎診療の向上、標準化を目指して活動しています。また、日本医師会治験促進支援センターの支援を受け、抗インターロイキン6受容体抗体であるアクテムラによる顕微鏡的多発血管炎および多発血管炎性肉芽腫症の治療法開発を医師主導治験として進めています。並行して、日本医療研究開発機構研究費(難治性疾患実用化研究事業)難治性血管炎診療のエビデンス構築のための戦略的研究を実施し、日本における血管炎治療の今後の方向性を検討し、治療に役立つ新しい指標(バイオマーカー)の臨床開発を進めています。 

>> ANCA関連血管炎の新規治療法開発研究

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高安動脈炎

高安動脈炎は日本人眼科医の高安右人(たかやずみきと)先生が発見された血管炎です。大動脈とその枝の血管の壁に炎症をおこし、動脈の拡張や閉塞を来します。俗に脈なし病とも呼ばれています。炎症が起きる血管の部位によって、脳の虚血、腕の虚血、大動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全、心不全、失明など、さまざまな症状が出現します。不明の発熱が続く場合の原因疾患の一つとして知られ、若い女性に比較的多い疾患ですが、中・高年で発症する場合もあります。

症状

全身症状として発熱・倦怠感を多く認めます。腕を支配する動脈が狭窄すると、手を挙げた時のだるさ、めまい、上を見るときのめまいや失神などが起こります。腕を支配する動脈が狭くなると、その腕の脈拍が弱くなります。首の動脈に炎症が起きると両側頸部に自発痛や圧痛を感じます。拡張した血管(動脈瘤)を鎖骨の付近に触れることもあります。

大動脈が心臓から出た直後の部分に強い炎症が起きると、大動脈弁閉鎖不全や動脈瘤が形成されます。大動脈弁閉鎖不全が進行すると労作時(動いた時)の息切れや足の浮腫など心不全の症状が出現します。心臓から肺にいく肺動脈に炎症と狭窄が起きると、呼吸困難、胸痛、血痰などの症状が出現します。腎臓の動脈に炎症と狭窄が起きると、腎機能が低下し、高血圧が出現します。眼の動脈に炎症が起きると、視力障害、失明につながります。

検査と診断

血液検査では赤沈亢進、CRP増多が見られます。また、MMP-3やペントラキシン3が増加します。血管の状態は頸部血管超音波検査、CTアンギオグラフィー、MRアンギオグラフィーなどを用いて評価します。まだ保険適用外ですが、FDG-PETが診断に有用であることが知られています。

当センターでの治療

治療は副腎皮質ステロイドを使用します。ステロイドで十分な治療効果が得られない場合、ステロイド減量に伴い再発した場合には、免疫抑制薬を併用します。ステロイドを使用しにくい場合や免疫抑制薬を併用しても十分な効果が得られない場合には、抗インターロイキン6受容体抗体であるアクテムラ®を使用します。ステロイドを徐々に減量し、5〜10mg/日程度の内服を継続します。個々の患者さんの病気の強さ、合併症、既往症などによって、治療内容を調節します。
高安動脈炎の患者様は心臓・大動脈などの機能の評価と炎症のコントロールの両者が重要です。当センターの主治医が、東京女子医大病院の診療各科と連携をとって、診断、治療、副作用の防止に当たっています。

TOPIC

抗インターロイキン6受容体抗体であるアクテムラ®が2017年8月から我が国の保険診療でも使用可能になりました。我が国で実施された臨床試験(治験)によって、ステロイド減量、寛解持続期間の延長などに対する効果が証明されています。当科でも積極的にアクテムラ®を使用しています。
日本循環器学会、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班が中心となって、血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)を作成しました(http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm)。高安動脈炎に関する詳しい情報が掲載されています。

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巨細胞性動脈炎

巨細胞性動脈炎は、額の両側にある側頭動脈と呼ばれる中型の動脈に炎症をおこし、頭痛や顎の疲れやすさがしばしば出現します。また、眼の動脈にも炎症がおよぶ場合があり、発見が遅れると失明にもつながる血管炎です。通常50歳以上の年代で発症し、側頭動脈炎、あるいはホートン病などの名称で呼ばれることもあります。

症状

代表的な症状は、発熱・倦怠感などの全身症状、頭痛(特に側頭部痛)、視力・視野異常、食事の際の顎の疲労感、上肢および下肢の痛みなどです。側頭動脈を触ると、典型的な場合は血管が怒張し、圧痛を伴います。また、血管が数珠状に膨らんでいる場合もあります。自然と炎症が収まった後の側頭動脈は、硬い索状の組織として触れます。手足の動脈にも炎症が出現することがあり、脈を触れにくくなる、手足を動かすとだるくなる、膨らんだ血管(動脈瘤)を触知するなどの症状が見られることがあります。

検査と診断

赤沈の亢進、CRPの上昇が見られます。症状と検査から側頭動脈炎を疑った場合には、側頭動脈の生検を行います。なるべく長い血管を採取することにより、診断の確率が上昇します。最近では、画像診断でも側頭動脈の変化をある程度評価できるようになりつつあります。肩・上腕・臀部・大腿などの痛みが強い場合には、リウマチ性多発筋痛症の合併を疑って、診察および超音波検査、血液検査を行います。

当センターでの治療

巨細胞性動脈炎はステロイドに対する治療反応性が比較的良好で、体重50㎏の患者様の場合は37.5mg〜50mg/日のプレドニゾロンを用いて治療します。免疫抑制薬を併用する場合は、メトトレキサートがしばしば用いられます。ステロイドを使用しにくい場合や免疫抑制薬を併用しても十分な効果が得られない場合には、抗インターロイキン6受容体抗体であるアクテムラ®を使用します。ステロイドを徐々に減量し、5〜10mg/日程度の内服を継続します。
巨細胞性動脈炎の患者様比較的高齢な方が多いため、治療に伴う副作用の防止に特に注意しながら、診療を行っています。

TOPIC

海外で、巨細胞性動脈炎を対象としたアクテムラ®の臨床試験が実施され、2017年8月から我が国の保険診療でも使用可能になりました。ステロイド減量、寛解持続期間の延長などに対する効果が証明されています。

日本循環器学会、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班が中心となって、血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)を作成しました(http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm)。巨細胞性動脈炎に関する詳しい情報が掲載されています。

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結節性多発動脈炎

結節性多発動脈炎(PANと呼ばれています)は、大変珍しい疾患の一つで、全身の中型・小型の動脈壁に炎症をおこし、典型的な場合には腎臓・腸・肝臓・脾臓などの動脈に小動脈瘤(動脈のこぶ)が形成されることから、この「結節性」という名前がついています。通常、血液中には抗好中球細胞質抗体(ANCA)は認められません。

原因は不明ですが、B型肝炎ウイルス感染が関与する症例もいると言われています。現在わが国の患者数は3500名程度と推定され、男女比は1:3、平均発症年齢は55歳です。

症状

全身症状として、発熱、倦怠感、体重減少、関節痛が出現し、原因不明の発熱の精査の結果、結節性多発動脈炎と診断される場合もあります。関節痛や筋肉痛もよく見られます。臓器としては、皮膚、腎臓、神経、腸、筋肉などに病気が出現します。

皮膚では、下肢に紫斑(圧迫しても色が消退しない小紅斑)が出現し、紫斑の部位には小さなぐりぐりを触ります。腎臓の動脈に炎症がおよぶと血圧が上昇し、重症な場合は腎不全になることがあります。腸の動脈に炎症がおよぶと持続性で鈍い腹痛、食事の際の腹痛、吐き気、嘔吐、下血、下痢などがみられます。神経の動脈に炎症がおよぶと、手足のしびれ、筋力低下を自覚します。このほか、心筋炎、ブドウ膜炎、上強膜炎、男性では精巣痛などが見られます。

検査と診断

結節性多発動脈炎では、赤沈の亢進、CRPの上昇、白血球増加、貧血、血小板増多が見られます。尿では、潜血陽性、軽度のたんぱく尿、沈渣で赤血球が認められます。自己抗体は検出されません。診断を確定するには、症状のある部位(皮膚、腎臓、神経など)からの生検が必要です。あるいは、血管造影やMRアンギオグラフィーにより、多発する小動脈瘤が確認できれば診断できます。

当センターでの治療

治療は副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬(主としてエンドキサン®)を使用します。血管炎の症状、検査の改善をみながら、ステロイドを減量し、エンドキサンからアザニン®またはイムラン®に切り替えて、治療を継続します。個々の患者さんの病気の強さ、合併症、既往症などによって、治療内容を調節します。
結節性多発動脈炎の患者様は複数の臓器の病変をお持ちですので、当センターの主治医が、東京女子医大病院の診療各科と連携をとって、診断、治療、副作用の防止に当たっています。

文責 針谷正祥
2018年5月28日更新

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