東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
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脊椎関節炎(Spondyloarthritis: SpA)とは、脊椎(背骨)や仙腸関節といった体軸関節(体幹部の関節)や、手指・足趾などの末梢関節、また付着部と呼ばれる腱や筋の付け根に炎症をきたす疾患群の総称であり、男女比3~4:1と男性に多いとされています。代表的な疾患として強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis: AS)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis: PsA)がありますが、この他にも、反応性関節炎(reactive arthritis: ReA)、炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎(spondyloarthritis associated with inflammatory bowel disease)、分類不能脊椎関節炎(undifferenciated spondyloarthritis: uSpA)などが含まれ、最近では新たにX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nonradiographic-axial spondyloarthritis: nr-axSpA)という疾患概念が加わりました。これらはどれもヒト白血球抗原の一つであるHLA-B27という遺伝子のタイプに関連すると考えられています。このHLA-B27という遺伝子の保有率は日本人では非常に少なく、日本のAS患者数は一般人口の1000人に1人未満で、推定患者数は3200名程度とされています(Mod Rheumatol. 2022;32:960-967.)。また患者さんは10代などの若い頃から慢性腰痛などの非特異的な症状がありますが、エックス線検査での脊椎や仙腸関節の変化は数年~10年後に現れることも稀ではなく、疾患の希少性と検査所見の現れにくさから診断に至るまでに平均10年程度かかるとも言われています。

 

強直性脊椎炎(AS)

症状

背中、腰あるいは臀部に痛みやこわばりを認めます。痛みやこわばりは、夜間、早朝に悪化し、運動により改善しますが、安静では改善しないことが多くみられます。進行すると背骨の動きや胸の広がりが悪くなります。背部痛以外に、肩関節や股関節、アキレス腱周囲、かかとの痛みなどが生じることがあります。虹彩炎やぶどう膜炎などの眼の症状、大動脈閉鎖不全など心症状を合併することもあります。

診断・鑑別

血液検査では、CRP上昇、赤沈亢進を認めます。HLA-B27遺伝子が認められることが多いとされていますが、陰性例もあります(遺伝子検査は通常自費診療となります)。また診察では、BASMI(Bath Ankylosing Spondylitis Metrology Index)と言われる、脊椎と股関節の可動性を測る検査などを行います。画像検査では手足、脊椎、骨盤のエックス線検査を行い、特徴的な所見(骨びらん、靭帯骨棘、竹状脊椎など)を調べます。病気の初期ではエックス線では異常がみられないことも多いため、MRI検査が有用です。強直性脊椎炎と他の脊椎関節炎との鑑別が必要ですが、腰背部の痛みとこわばりが45歳未満で発症して3ヶ月以上持続し、朝に症状が悪化し運動によって改善が認められる場合は、強直性脊椎炎が強く疑われます。

治療

治療目標は疼痛やこわばりをコントロールする事と、靱帯骨棘の進行による強直の抑制になります。その結果、身体機能を維持し、生活の質(QOL)を維持する事に繋がります。
① 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):第一選択薬として十分量のNSAIDsが使用されます。
② 抗リウマチ薬(csDMARDs):一般的にASでの有効性は認められませんが、末梢関節炎が強い場合にはサラゾスルファピリジン(SASP)が用いられる場合があります。
③ ステロイド(グルココルチコイド):ステロイドの全身投与は無効とされていますが、末梢関節への関節注射が有効な場合があります。
④ 生物学的製剤(bDMARDs):NSAIDsが無効で疾患活動性の高い場合に用いられます。以前から用いられてきたTNF阻害薬(レミケード®、ヒュミラ®)のほか、近年ではIL-17阻害薬(コセンティクス®、トルツ®、ルミセフ®)、JAK阻害薬(リンヴォック®)などの有効性も報告されており、当施設でも導入しています。
⑤ 運動療法:AS治療では、薬物療法だけでなく運動療法も重要になってきます。AS患者さんに適した運動やストレッチの方法は、日本脊椎関節炎学会ホームページをご覧ください(http://www.spondyloarthritis.jp/common/img/pamphlet.pdf)。
⑥ 手術療法:AS患者さんでは股関節の痛み、動きの制限などの症状が出現しやすく、進行した場合は人工股関節全置換術などの手術が必要になることもあります。

 

X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)

体軸性脊椎関節炎のうち、X線基準を満たさない、すなわち、レントゲン検査で診断可能な程度の異常がみられない症例をさします。乾癬や炎症性腸疾患、SAPHO症候群(掌蹠膿疱症性骨関節炎)、びまん性特発性骨増殖症などを除外する必要があるため、診断には専門的な知識と経験が必要となります。本疾患の一部はASに移行する可能性があると言われていますが、米国ではnr-axSpAの約10%は自然に症状が消失する(寛解する)ともいわれています。治療はASに準じて行われます。

 

乾癬性関節炎(PsA)

症状

乾癬とは、鱗屑(りんせつ:硬くなった皮膚がかさぶた状にぽろぽろ剥がれ落ちる状態)を伴う境界明瞭な紅斑で、肘や膝、頭皮、耳などに多くみられます。乾癬に関節症状が伴うものを乾癬性関節炎と呼び、関節症性乾癬ともいわれます。乾癬患者さんの約10〜30%に生じ、手足や脊椎、かかとやアキレス腱付着部、仙腸関節に痛みが生じます。また1本の指全体がソーセージ様に腫れる指趾炎を呈することがあります。爪が割れたり剝がれやすくなる、爪の表面にボツボツした凹みが現れるなどの症状がみられることも特徴です。多くは皮膚の症状が先行して関節症状がみられますが、関節症状が先にみられることもあります。

診断・鑑別

血液検査では赤沈やCRPの上昇がみられ、一般的にはリウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性です。手足、脊椎、仙腸関節のエックス線検査を行い、特徴的変化(骨びらん、骨増殖像、傍脊柱骨化、骨棘形成など)をチェックします。また早期診断にはMRI検査も有用です。PsAと関節リウマチ(RA)や変形性関節炎(OA)の鑑別は時に非常に難しく、診断には、皮膚科医(乾癬、爪症状)とリウマチ科医(関節炎、指趾炎)の協力が必須です。

治療

治療は、末梢関節炎、脊椎関節炎、指趾炎、付着部炎、皮膚・爪病変でそれぞれ異なります。
① 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):関節炎・脊椎炎に対しては第一選択薬となります。
② 抗リウマチ薬(csDMARDs):末梢関節炎に対しては、メトトレキサート(MTX)、サラゾスルファピリジン(SASP)、レフルノミド(LEF)などが用いられます。
③ 生物学的製剤(bDMARDs):上記治療で効果不十分の場合に用いられます。現在、TNF阻害薬(レミケード®、ヒュミラ®、シムジア®)、IL-12/23阻害薬(ステラーラ®、トレムフィア®、スキリージ®など)、IL-17阻害薬(コセンティクス®、トルツ®)、経口ホスホジエステラーゼ(PDE4)阻害薬(オテズラ®)、JAK阻害薬(リンヴォック®)など様々な新規薬剤が登場しています。
④ 運動療法・減量指導・栄養指導:肥満とメタボリックシンドロームはPsAに多い併存疾患であり、これらが治療反応性を低下させる可能性があります。運動療法に加えて、適切な食生活について栄養士の指導を受けることも有用です。
 
<ガイドライン>
2020年に日本脊椎関節炎学会から『脊椎関節炎診療の手引き2020』が発刊されました。脊椎関節炎関する詳しい情報が掲載されています。
 
代表的なASやPsAを中心にご紹介しましたが、脊椎関節炎は患者さんの数が非常に少なく診断の難しい難病です。当科では皮膚科や消化器内科、整形外科など、他科と連携しながら診断と治療を進めて参ります。またASは国の指定難病となっており、一定の基準(重症度)を満たしていれば、治療費の公費助成を受けることができます。ご不明点やご不安なことはお気軽にお問合せください。
  

文責 落合 萌子
2022年11月8日