コラム

認知症を心配するあなたへ

2021.04

脳神経内科
東京都地域連携型認知症疾患医療センター長
松村 美由起


 最近、物覚えが良くない、人の名前が思い出せない…、もしかして認知症?そんな風に思っている人は少なくないのではないでしょうか。そんなあなたに大切なことをお伝えしたいと思います。

■認知症とは■

 生活に必要な様々な脳の働きが、脳の病気によって障害されて生活に支障が生じる状態をいいます。その原因としてよく知られているのがアルツハイマー病やレビー小体病ですが、認知症の原因はこれらのみでなく極めて沢山あり、その原因により症状や経過も異なります。そのため認知症の診断は、認知症があることのみならず、その原因となる病気を診断することが大切になります。しかし、高齢になるほど複数の病気により認知症をきたすため、専門医による診断が必要となります。
 認知症の症状は記憶障害が代表的で、よくもの忘れと言われますが、物覚えをすることができなくなります。つまり認知症における記憶障害は記憶を留めることができません。従って、認知症の人にとっては言ったことや、やったことは体験していないことになります。しばしば認知症の人から、そんなこと聞いていないとか言っていない、やっていないと言われるのはそうしたことが原因です。
  ほかに注意機能が悪くなったり、言葉が不自由になったり、日付や場所が不確かになったり、今までのように段取り良く物事を行うことが出来なくなったりなど、色々な症状が起ってきます。

■認知症かな?と思ったとき■

 どんな病気でも早く診断されることでその後の日々が変わってきます。たとえば癌であれば、できるだけ早く発見し治療したいと思うでしょう。それは診断が遅れればその間に病気が進み、命に係わるとともに、自分の希望にそぐわない生活を余儀なくされてしまうからです。認知症も同じです。早く診断されることでその後のあなたの人生をあなたの望む様に送る鍵をあなた自身でつかむことができるのです。つまり、診断はその後のあなたの生活を左右するスタートラインになります。
   では診断されたらどうなるのでしょうか。あなたは、あなたの病気について知る事になります。認知症の症状や経過は、原因となる病気によって異なります。つまり認知症の症状と経過は一人ひとり異なるのです。診断後には、原因となる病気により起こるあなた自身の症状についてご説明します。十分にご理解いただいたうえで、治療方法、その後の生活についてあなたのご希望にそうかたちになるよう相談し診療を進めてゆきます。

■あなたの人生をあなたらしく■

  残念ながら認知症は時間とともに進行していきます。つまり、そんなことはないと事実と向き合うことを避けていたり、何か確立されていないものにすがったりすると、その間に病気は進行してしまいます。こうしたいという自身の希望を考えたり、伝えたりする脳の機能も衰えるため、あなたの望まない生活になってしまうかもしれません。
 大切なあなたの人生をあなたらしく過ごして頂くためにも、ご自身で認知症かもしれないと疑ったら、どうぞ認知症疾患医療センターの扉をたたいてください。

■認知症疾患医療センターとは■

 認知症疾患医療センターは、国の認知症施策の1つとして地域における認知症の専門医療や地域の認知症に関わる体制の構築や啓蒙活動、人材育成など様々な機能を託された医療機関です。東京都は1つの区で1つの医療機関を指定していますが、東京女子医科大学附属成人医学センターは渋谷区の中で認知症疾患医療センターの指定を受けた医療機関です。
 認知症疾患医療センターは渋谷区における認知症に関する窓口となります。認知症専門医、専門相談員、認知症看護認定看護師、公認心理師がチームとなり診療と相談をお受けしています。認知症を心配するとき、家族が認知症かもしれないと思う時、ご自身やご家族の認知症のことで困りごとがあるとき、認知症のことを知りたい時、認知症にまつわる色々なことで相談がある時など、どうぞお気軽にお訪ねください。