コラム

ロコモティブ・シンドローム(locomotive syndrome)とは

2014.01.01

整形外科 准教授 村田泰章

 ロコモティブ・シンドローム(locomotive syndrome)とは、運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態になることをいいます。運動器とは、骨、関節、靱帯、脊椎、脊髄、筋肉、腱、末梢神経など、体を支え、動かす役割をする器官の総称です。平成19年に、日本整形外科学会が、新たにロコモティブ・シンドロームを提唱しました。ロコモと略して呼ばれたりもします。ロコモティブ(Locomotive)とは、「運動の」という意味です。「機関車」という意味もあります。能動的な意味合いをもつ言葉で、運動器は人の健康の根幹であるという考えを背景として、年齢に否定的なイメージを持ち込まないことが必要だと考えて選ばれた言葉です。ロコモの提唱には、「人間は運動器に支えられて生きている。運動器の健康には、医学的評価と対策が重要であるということを日々意識してほしい。」というメッセージが込められているそうです。

 ロコモの原因には、運動器自体の疾患と、加齢による運動器機能不全があります。運動器自体の疾患は、言いかえると筋肉や骨の疾患です。たとえば変形性関節症、骨粗鬆症に伴う円背、易骨折性、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症などの加齢に伴う様々な運動器疾患が含まれます。変形性関節症と骨粗鬆症に限っても、推計患者数は4700万人(男性2100万人、女性2600万人)とされています。関節痛、関節可動域低下、筋力低下、麻痺、骨折、痙性などにより、バランス能力、体力、移動能力の低下をきたします。一方、加齢による運動器機能不全では、筋力低下、持久力低下、反応時間延長、運動速度の低下、バランス能力低下などがあげられます。運動不足になることでも、筋力やバランス能力の低下が進行して、運動機能の低下が起こり、日常生活で転倒しやすくなり、運動器自体の疾患を併発してしまうことがあります。

 ロコモかどうかについて判断する為の基本的な7つのチェック項目があります。①片脚立ちで靴下が履けない②家のなかでつまずいたり滑ったりする③階段を上るのに手すりが必要である④横断歩道を青信号で渡りきれない⑤15分くらい続けて歩けない⑥2kg程度の買い物で持ち帰りが困難⑦家のやや重い仕事(掃除機の使用や布団の上げ下ろしなど)が困難の7つです。このチェックでは、①はバランス感覚、②はつまずきに関わる下腿部の筋力や神経障害の有無、③は太ももの前の筋力や膝関節疾患の有無、④は歩行の速さ(体重移動の速さ)、⑤は筋力や筋持久力、心肺機能や脊柱管狭窄症の有無、⑥と⑦では身体全体の筋力、というように、筋力的な問題はないか、運動器の影響からでている神経障害がないか、バランス感覚は鈍っていないかなどの測定をしています。この中の一つでも当てはまる場合はロコモの可能性があります。痛みが出ている部分があれば整形外科などの専門医に相談してください。痛みが特にないのであれば筋力を向上させる訓練などを行い、状態がひどくならないように気をつけなくてはいけません。しかし、1つだから軽症とか、複数当てはまったから重症となるわけではありません。いくつ当てはまっていても、自立して歩くことができ、日常生活に支障が無いようであれば軽症です。歩行に杖や歩行器などの補助具を必要とする場合には中等症、立ち上がるのに介助が必要であったり、一人で歩くのが困難であったりする場合には重症となります。ロコモは気づかずに進行していきます。重症にならないように、日々の運動、予防を心がけましょう。