コラム

動脈硬化を予防するために~糖尿病になる前から食後高血糖に注意しましょう~

2013.05.01

糖尿病内科 医師 大澤 真里

(1)動脈硬化による病気が日本を脅かしている?

 日本では、動脈硬化による病気、特に心筋梗塞を中心とした虚血性心疾患と、脳梗塞・脳出血を中心とした脳血管障害による死亡が、日本人の死因統計上、ガンと並んで大きな位置を占め、死因の30%に及んでいます。日々高齢化する我が国において、今後も増加が予想され、予防や対策が重要と考えられます。
 狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳卒中、足壊疽などの末梢動脈疾患は、糖尿病患者さんにだけ起こるものではありませんが、糖尿病のある方に合併しやすく、なおかつ重症度が高く、予後も悪いため、糖尿病の合併症として考えられています。網膜症(目の合併症)や腎症(腎臓の合併症)などは糖尿病が悪い状態を何年も経過してから出現しますが、大血管障害と総称される脳梗塞・心筋梗塞は、糖尿病の予備群の状態から始まることがわかっています。

(2)動脈硬化って何?

 血管の内側には、血管内皮細胞という細胞があり、外側に内膜・中膜・外膜という三つの膜が層になっています。間に弾性板や、平滑筋細胞といったものもあり、これらが血管のやわらかさや、血管が収縮・拡張したりするのをコントロールしています。動脈硬化とは、このような血管の壁が硬くなったり、動脈の内側の壁に脂肪やコレステロールがたまり、その部分の血管が狭く、もろくなる病態です。内側にたまったものをプラーク(粥状硬化巣)と呼んでいます。
 古くなったホースを思い浮かべてください。硬くなって曲がらなかったり、中にゴミがつまったり、ときにはちょっとした刺激で穴があいたりしますよね?動脈硬化が進んだ血管はそのような状態になるのです。

(3)自分の動脈硬化を調べたいのだけれど?

 動脈硬化を調べる検査は色々ありますが、外来で、簡単に行える検査としては、頸動脈超音波(エコー)検査、脈波伝播速度(PWV・ABI)があります。 頸動脈エコー検査は、首の動脈をエコーでみて、壁の分厚さ(IMT:頸動脈内膜中膜複合体肥厚度)や、プラークが無いかなどをみます。PWV検査は、仰向けに寝ていただいた状態で、両手両足の血圧測定などを行い、動脈の硬さや足の血管の詰まりがないかを診る検査です。

(4)動脈硬化を起こしやすい人って?~食後高血糖がある人は注意~

 血糖値が高いと、動脈硬化が進みやすいことがわかっていますが、実は、糖尿病と診断される前でも、ブドウ糖負荷検査の二時間後の値が140-199mg/dlと高い人は、食後の血糖値が高いだけで、動脈硬化が進みやすいことが、日本で行われた舟形町研究で示されました。海外の研究でも食後高血糖が心血管死に関係が深いことが示されており、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)からも、「食後高血糖は有害で、対策を講じる必要がある」という喚起がなされています。糖尿病になってからの血糖コントロールはもちろんのこと、糖尿病になる前から、食後に高血糖になる方は、注意が必要なのです。
 他にも、血圧が高い、悪玉コレステロールや中性脂肪が高い、善玉コレステロールが低い、肥満(特に内臓脂肪型肥満)、タバコ(受動喫煙も含めて)も動脈硬化を進行させる因子です。いわゆるメタボリックシンドロームという言葉は、これらの動脈硬化を進行させる因子を複数あわせもつ人をさし、動脈硬化を進行させるこれらの危険因子(リスクファクター)をより積極的に治療していく必要があります。
 健診や外来の検査で、早い段階で動脈硬化危険因子を見つけ出し、適切に対処して、脳梗塞や心筋梗塞といった大きな病気を予防していきましょう。