コラム

BNPって?

2010.02.01

講師 石塚 尚子

 BNPは(脳性ナトリウム利尿ペプチド;brain natriuretic peptide)の略で、心臓(主に心室)で合成され分泌されるアミノ酸32個よりなるホルモンである。1988年に日本人の松尾・寒川らによって豚の脳から単離、同定された。その後ヒトの心室筋より分泌されることがわかり、1992年にはヒト型BNPの構造も同定された。 心臓の負荷が増えたり、心筋の肥大が起こるとBNPの血液濃度が増加する。本来、BNPは利尿作用、血管拡張作用、レニン・アルドステロン分泌抑制、交感神経抑制、肥大の抑制などの作用があって、心筋を保護するように働くホルモンである。現在、BNPは治療薬ではなく、心不全の生化学的マーカーとして広く臨床現場で用いられており、『慢性心不全治療ガイドライン』の心不全の診断の項にも記載されている。
 高齢社会においては高血圧や虚血性心疾患など、心臓病の有病者は増えつつあり、心臓病の早期発見、早期治療が重要であることは言うまでもない。心疾患のスクリーニングとして、人間ドックや健診などでは心電図がよく用いられるが、心電図だけでは検出できない心臓病の早期発見にBNPの測定は有用である。また、心臓病の診断がついてすでに治療を受けている患者さんにおいては、その治療効果の判定や予後の推定などにもとても役立っている。
 心不全は高血圧による心肥大、虚血性心疾患(心筋梗塞など)、弁膜症、心筋症などのいろいろな病気によって起こる症候群と考えられている。心不全の症状としては息切れ、疲れやすい、咳や呼吸困難、浮腫みや食欲低下など様々であるが、中には加齢や運動不足、喫煙による肺の問題などと思われていることもある。それらの症状が心不全によるものかどうか区別するのに有用である。慢性腎不全、透析、肝硬変、甲状腺機能亢進症など心臓病以外でも上昇する場合があり、値が高い場合には、専門医で精密検査を受ける必要がある。
 血漿BNP値の基準値は18.4pg/ml以下である。大まかには18.5~39pg/mlは要経過観察、40~99pg/mlは心疾患の疑いがあるので要精密検査、100pg/ml以上の場合は治療を要する心不全の疑いがあるので専門医に相談する必要がある。心房細動などの不整脈があると100 pg/ml近くに上昇することがある。急性心不全で緊急入院が必要な場合には500pg/ml以上に上昇したり、また、心臓移植が必要なほど重症の心不全の例では1000pg/mlを超えることもある。入院後に各種の心不全の治療を行うことによりBNP値も減少してくるので、その値を目安に薬の種類や量の調整を行う。
 従って、BNP値測定は①心疾患のスクリーニング、②心不全の重症度評価、③心不全に対する治療効果判定、④心不全患者の予後予測指標などに有用とされている。