コラム

寿ぎの年の初めに日本人の食を想う

2013.01.01

神経内科 講師 松村美由起

 新年明けましておめでとうございます。良いお正月をお迎えでしょうか。

 東日本大震災にて被災された皆様の中にはいまだご不自由な生活を送られている方もいらっしゃると伺っております。一日も早く穏やかな日常が戻りますようお祈り申し上げます。

 お正月の食と言えばおせち料理です。おせち料理はもともと中国の五節供の行事に由来しているそうです。奈良時代に宮廷内で行われた節会で供される供御を節供(せちく)と言い、この五節会行事を一般庶民がならって御節供を行うようになったものと考えられているとのことです。おせち料理は地方により異なると思いますが、黒豆、田作り、数の子、たたきごぼう、紅白蒲鉾、伊達巻、きんとん、焼き物(鰤や鯛、海老など)、紅白なます、昆布巻きと、くわいや八つ頭、レンコン、にんじん、こんにゃく、椎茸などのお煮しめなどは共通して入っているものではないでしょうか。実に日本人の食文化の豊かさを感じるお料理のひとつです。

 なぜ今おせち料理に和食の素晴らしさをしみじみ思っているのかと申しますと、最近の若者世代の食文化に少し悩ましさを感じているからです。当センターは企業健診も行っておりますので、20~30歳代の若い世代の健診も行っておりますが、その結果に驚かされることが少なくないのです。総コレステロール、悪玉コレステロール(LDL)が驚くほど高い方が少なくありません。当院ではこうした方々に日常生活に即したわかりやすい栄養指導を行っていますが、こうした結果が予想以上に多いことから、産業医で関わっているある企業で食事調査をしてみました。圧倒的に少ないのが野菜の摂取ですが、外食やコンビニに頼らざるを得ない中でも考えながら食事を摂っている様子もうかがえました。その中でこれは100点!と感服する食事の方がいらっしゃいました。奥様の家庭料理を召し上がっている年配の方です。バランスを考えて摂っているコンビニの食事と家庭料理の間にある決定的な違いは何でしょうか。それは食材の豊かさです。野菜を一生懸命摂っているつもりでも、コンビニのサラダにはレタス、キャベツ、少しのトマトやニンジン、玉ねぎなどがほとんどです。毎回の食事にこればかりではあまりバリエーションがあるとは言えません。一方、家庭ではレタスやキャベツだけでなく、青菜、根菜など多種類の野菜、海藻、肉や魚、大豆製品、乳製品、発酵食品など食材の多さは比較になりません。思えばこれは少し前に私達日本人の食卓にのぼっていた食品の数々なのです。

 厚生労働省の平成23年度国民健康・栄養調査結果では、H13年に比べ野菜、果物、魚の摂取量が減少し、特に20~40歳代で顕著だということです。動脈硬化の予防に食生活の改善が大きな役割を果たすことは良く知られています。特に野菜は、その細胞膜成分の一つである植物ステロールにコレステロール低下作用があることが知られています。植物油である米湯、ごま油、なたね油に多く含まれ、他に根菜や豆類、米ぬかにも多く含まれているそうです。きんぴらごぼうや煮豆、ぬか漬けなど我が国の昔ながらのおなじみのお惣菜には抗動脈硬化作用のある食品が実に多く含まれていたのです。日本の伝統的な食文化の素晴らしさに改めて感心させられます。

 寿ぎの年の初めに、この一年の健康管理の一つとして食生活の見直しも加えてみてはいかがでしょうか。