コラム

糖尿病で透析にならないために
~尿中微量アルブミンを検査しましょう!~

2012.04.01

糖尿病内科 医師 長谷 美智代

 糖尿病は血液の中の糖分が上昇し、全身の血管を傷つけることによって、様々な合併症を引き起こす病気です。糖尿病で失明した、透析になった、壊疽になった・・等、時々耳にされることもあるかと思います。しかし、糖尿病と診断されても、きちんと管理を行い合併症さえ出さなければ、決して恐れる病気ではありません。今回のコラムは、糖尿病の3大合併症の一つである、腎臓の障害、糖尿病性腎症のお話です。

 腎臓は握りこぶしぐらいの大きさの臓器で、背中の裏側に2個あります。細い血管がたくさん走っており、血液から老廃物をろ過しておしっこを作っています。血液の中の糖分、つまり血糖値が高くなると、腎臓の細い血管が傷つき、腎臓が痛んでしまいます。これが糖尿病性腎症です。糖尿病は症状が出にくいから怖い!とお聞きになったことがあるかと思います。腎臓が悪くなると、尿が減ってむくむなどの症状が出そうですが、実際にはそれらの症状は、腎臓の機能が大分悪くなってから出ることが多く、定期的な検査をおろそかにしてしまうと、気付かないうちに病状が進行してしまうことがあるのです。

 腎臓が機能しなくなってしまうと、腎症はもとにもどりません。治療としては人工的に血液をろ過して、腎臓の代りを行う透析療法や腎臓移植をしなければ命をつなぐことができません。透析療法を行うには、血液透析の場合、週2~3回、1回3~5時間病院にいることとなり、大変な負担となってしまいます。現在、新しく透析療法に入る方の腎臓障害を引き起こした原因、第一位は残念ながら糖尿病性腎症です。

 腎症の予防はどうのようにしたらできるでしょうか?それはとにかく早く発見することです。進行してしまった腎臓障害には残念ながら特効薬はありません。しかし早期であれば、ある種類の降圧剤を使用し血圧のコントロールを行い、同時に血糖コントロールの徹底や、コレステロール等の管理を行い、注意深く治療してゆけば腎症の進行をおさえることが可能となってきました。

 では、どうしたら、なかなか症状の出にくい腎症を早く見つけることができるのでしょうか?そこで今回のテーマである、早朝尿の尿中微量アルブミン検査の出番となります。当センターでは、尿中アルブミンの測定は、起床時の早朝尿をご持参いただき検査をしております。表は糖尿病性腎症の病期分類、つまり腎症の進行具合を大きく5期に分けたものです。1期→5期になるにつれ、腎臓障害が悪くなったことになります。病院で尿検査を行い、尿にタンパクが出たという話しをお聞きになったことがあるかもしれません。腎臓が悪くなると、たしかに尿にタンパクが漏れ出てくるのですが、糖尿病性腎症病期分類をごらん頂くとわかるように、タンパク尿が出るのは腎症が大分進行してからです。より早く、正確に腎症の状態を把握するためには、表にある、尿中微量アルブミンの検査が必須です。日本人の2型糖尿病患者さんについての調査で、30%の方に微量アルブミン尿を認めたという報告があります。つまり自覚症状もタンパク尿も出ていなくても、静かに腎臓障害が進行しているという方が30%ぐらい、いらっしゃるということです。

 食生活の欧米化や、車社会による運動不足などにより、糖尿病の患者数は年々増えています。それに伴い、先に述べた糖尿病性腎症によって新しく透析に入る方の人数も増え続け、1999年に糖尿病性腎症が、透析導入となる原因の一位となって以来、ずっと一位という残念な状態が続いています。しかしながら、2010年に初めて、糖尿病性腎症により透析導入した方の人数が前年に比べ少し減少しました。尿中微量アルブミンの測定が幅広く浸透し、早期に腎臓障害への対応がなされるようになってきたことが、理由の一つとして考えられています。

 平均寿命が延び、私達は一昔前に比べ、自分の腎臓をより長く使ってゆかなくてはならない時代となりました。糖尿病と診断された方は、是非、自分の腎臓の健康状態を把握し、状況にあった治療を、ご一緒に目指してゆきましょう!

糖尿病性腎症の病期分類