コラム

医食同源2 トランス脂肪酸のはなし

2011.05.01

管理栄養士 福永琴路

 『バターをマーガリンに替えましょう!』と言われていた時代から一転、『マーガリンは危険!』と警告がなされ、トランス脂肪酸の名を知った方も多いかと思います。

トランス脂肪酸とは
 あぶらには、常温で液体のあぶら(油)と固体のあぶら(脂)があり、これらを油脂と呼んでいます。この油脂は脂肪酸とグリセリンという分子からできていて、この油脂や脂肪酸、グリセリン、コレステロールをまとめて脂質と呼んでいます。
 脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類があります。さらに不飽和脂肪酸には、分子構造の違いにより、炭素(C)の二重結合をはさんで水素(H)が同じ側にあるシス型、水素(H)が反対側にあるトランス型とがあります。このトランス型の二重結合が一つ以上ある不飽和脂肪酸をまとめてトランス脂肪酸と呼んでいます。

図1

※農林水産省ホームページより

トランス脂肪酸が含まれる主な食品
 トランス脂肪酸には、①天然に食品中に含まれているものと、②油脂を加工・精製する工程で工業的にできるものがあります。
① 天然に含まれるもの
 牛や羊などの反芻(はんすう)動物では、胃の中の微生物の働きによってトランス脂肪酸が作られるため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中には微量のトランス脂肪酸が含まれます。
② 工業的に作られるもの
 常温で液体の植物油に水素添加して製造されたマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原料につかったパン、ケーキ、ドーナッツなどの洋菓子・揚げ物などにトランス脂肪酸が含まれます。また、植物油を精製する高温処理工程でシス型の不飽和脂肪酸からトランス脂肪酸ができるため、植物油にも微量のトランス脂肪酸が含まれています。

日本人のトランス脂肪酸摂取量と体への影響
 世界保健機構は一日当たりのトランス脂肪酸平均摂取量を最大でも総エネルギー摂取量の1%未満(2g相当)にするように勧告しています。日本人の平均摂取量は、総エネルギー摂取量の0.6%(1.3g)程度です。近年の研究では若年層や女性などで、摂取量が1%を超えているとの報告もあります。トランス脂肪酸は摂取量が多いと、冠動脈心疾患のリスクを高める血中LDL(悪玉)コレステロールを増加させ、HDL(善玉)コレステロールを減少させると言われています。

トランス脂肪酸の1人当たりの摂取量 各国の比較

図2

※食品安全委員会調査資料より
*平成16年度国民健康・栄養調査における食品群別摂取量から推計
**食用加工油脂の国内生産量から推移

日本国内に流通している食品のトランス脂肪酸含有量

図3

※食品安全委員会調査資料より

トランス脂肪酸の食品含有量表示
 近年の科学的な知見の蓄積に伴い、脂質に関する情報が消費者の食品選択の重要な指標となりつつあります。しかしながら、健康増進法により表示の基準が定められている飽和脂肪酸やコレステロールと異なり、トランス脂肪酸については表示のルールが存在しませんでした。このため、消費者省では2011年2月21日に『トランス脂肪酸の情報開示に関する指針』を公表し、食品事業者がトランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を自主的に開示するよう要請しました。今後、トランス脂肪酸含有量表示を目にする機会が増えることでしょう。積極的に活用し、健康的な食生活にお役立て下さい。