コラム

内科医が腎臓専門医に紹介するとき

2011.02.01

消化器科 准教授 土谷まり子

 このところ、一度専門の先生に診ていただきましょうと、紹介することが多くなりました。
最新の医療をと心がけるゆえです。循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、神経内科、呼吸器内科は、当院では皆専門医ですので、紹介するまでもなく直接受診されたりと円滑に運びます。しかし本院の腎臓専門医に紹介となると、「そんなに腎臓が悪かったんですか?」と、患者様はとても心配そうな顔になります。「いえいえ、そうならないようにするためですよ」と内科医は慌てるわけです。そこで内科でどこまで診て、どのポイントで紹介し、どんなことをするか簡単に紹介したいと思います。
 最近、腎疾患が心臓血管疾患の進展の大きなリスクになっていることが判ってきました。早めに腎疾患の進展を予防することは、心臓血管疾患の予後(病気の経過)もよくすることになります。また腎機能はいろいろな要因(加齢も大きな要因ですが)で少しずつ低下していくことが多く、われわれ内科医は其の要因をひとつひとつ軽減し、腎臓が長らく十分働けるように管理します。たとえば循環器医は、血圧コントロールと減塩を指導し、適切な降圧薬を選択し、糖尿病内科医は糖尿病のコントロールを十分に行い、腎合併症の進展がないか定期的にチェックします。呼吸器内科では禁煙を厳しく勧められることでしょう。消化器内科では脂肪肝をはじめとする肥満に伴う生活習慣病や、脂質異常症の管理を厳重に行います。それでも改善がなく、あるいは当初から
1.持続的蛋白尿2+以上
2.だんだん進展しそうな腎機能の低下(eGFRで50ml/min/1.73㎡以下:血清クレアチニンから算定する腎機能の目安)が続く
3.蛋白尿、血尿がともに1+以上
どれか該当すれば一度専門医に紹介します。こうした状態を、慢性腎臓病(ステージ3~4)として診療します。この場合、排尿異常や結石、尿路系の悪性腫瘍を扱う泌尿器科とは異なり、腎臓の内科に紹介します。
1.は、(一過性ではなく)持続的な蛋白尿があるということは、すでに腎臓の組織に傷害があり、正常な腎機能が保てなくなっているということですから、腎臓の病気として、診断や予後について(今後専門医の管理が必要になってくる可能性を含めて)専門医の意見が必要です。2.については、はっきりした腎臓の病気だけではないかも知れませんが、今後の進展の可能性や、内科の管理の中で腎機能が永く保てるように指導を受けることが必要です。3.については、腎機能の低下や蛋白尿を伴わない場合、血尿だけではすぐに紹介しません。血尿だけであれば、まず内科で(頻度的には少ないのですが)腎尿路系の腫瘍や結石がないか、画像(エコー、レントゲン)や尿細胞診などの検査をします。あるいはもう少し詳しい腎機能、蛋白尿の検査をして、経過を見ることもあります。わずかでも蛋白尿を伴う血尿であれば腎疾患の疑いで紹介します。
 実際に、腎臓内科ではもう少し詳細な腎機能の評価と、必要があれば腎生検(腎臓の組織を採取して調べる)を行い、診断に基づいて今後の見通しや治療についての指導を受けることになります。
 寿命がのびて、メタボリックシンドロームのような腎臓のリスクが増えてきていますので、生涯、腎不全に進まないよう、あるいは心臓血管疾患をより進展させることがないよう、腎臓専門医と協力して十分な管理をするのが目的です。