コラム

糖尿病のchange! ~新しい糖尿病の診断基準~

2011.01.01

糖尿病内科 医師 大澤 真里

 「change!」という言葉が流行ってしばらく経ちますが、2010年、糖尿病の世界では、いくつか劇的な変化がありました。治療においては、インクレチン関連薬という新しい治療薬が登場しました。テレビやラジオ・新聞などでも取り上げられ、耳にされた方も多いと思います。インクレチン関連薬については、成人医学センターで、2010年9月11日土曜日に行われた糖尿病教室でも、長谷美智代医師からわかりやすくお話をさせて頂きましたのでここでは割愛致します。

 その他の変化として、一般の方にはあまり知られていませんが、実は、2010年7月1日から、糖尿病の診断基準が変わりました。今回は、これについて述べさせていただきたいと思います。

 今までは、空腹時血糖値126mg/dl以上、75g経口糖負荷試験(ブドウ糖ジュースを飲んで)2時間値200mg/dl以上、随時(いつ何時でも)血糖値200mg/dl以上のいずれかが認められ、かつそのいずれかを後日再確認することが糖尿病の診断に必要でした。ただ、明らかな口渇・多飲・多尿・体重減少などの糖尿病の典型的な症状がある場合、同時に測定したHbA1c(*)6.5%以上の場合、確実な糖尿病網膜症(眼の合併症)が認められる場合などは一回の検査で診断できました。

 ここで、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という言葉が出てきましたが、とても大事な言葉なので説明させていただきます。HbA1cは、過去1~2ヶ月の血糖の平均値を教えてくれます。この数字をみるだけで、その方が、過去1~2ヶ月間、平均して大体どのくらいの血糖値であったか、がわかるのです。

 そして、9カ国の20-79歳の48331人の方を調査したところ、HbA1c6.1%以上で網膜症(眼の合併症)がおきやすくなることがわかりました。また、先に述べた『空腹時血糖値126mg/dl以上、75g経口糖負荷試験2時間値200mg/dl以上』は、研究の結果、HbA1c6.1%に相当することが示されました。

 そこで、新しい診断基準では、今まで補助的手段に用いられていたHbA1cの値を、より積極的に取り入れることとなりました。血糖値も高く、且つHbA1cも6.1%以上であれば、一回の検査で糖尿病と診断してよいこととなったのです。従来、血糖検査を繰り返し行って診断してきた方たちを、HbA1cを一回測定するだけで見つけられるようになり、診断基準が新しくなることによって、早期からケアすべき方たちをより的確に発見できるようになったといえます。

 糖尿病の予備軍(境界型糖尿病)の方は動脈硬化症の危険が大きいことがわかっており、HbA1c5.6~6.0%の場合は糖尿病の疑いが否定できず、またHbA1c5.2~5.5%の場合も含めて、将来糖尿病になりやすい可能性があると考えられています。

 糖尿病は、病気が軽い状態から見つけてあげることがとても大事です。一方で、よほど進行しないと、ご自身は気づかない、怖い病気です。「なんでもない」時から適切な対策を行い、大きな合併症を予防していきましょう!

糖尿病の臨床診断のフローチャート図