コラム

高血圧に関する対話

2010.12.01

循環器科 助教 布田 有司

今回は、高血圧に関する対話をお届けします。このシナリオは架空のものですが、当センターでは、実際に、このような会話が繰り広げられています。血圧が心配な方はどうぞお気軽にご相談ください。

A氏は健診に訪れた中年の男性です。

血圧を測定すると、上の血圧が126で、下の血圧が88でした。

医師:あなたは高血圧があるかもしれないですね。病院で測った血圧で、上の血圧が135を越える、あるいは、下の血圧が85を越える、というような方は、正常高値血圧っていいましてね、正常血圧と高血圧の間の血圧とされているんですよ。

A氏:私はずっと血圧は低いと思っていましたけどね。

医師:年齢を重ねると、血圧は少しずつ上がるんですね。いつのまにか高血圧だったって方は多いんですよ。日本人の4割が高血圧らしいですよ。血圧が高いと、血管に傷がつくんですね。その傷が治るときに硬くなる。これが動脈硬化ですね。動脈硬化がすすんで血管が細くなって、さらに傷ついて血の塊ができて詰まっちゃうと、心筋梗塞や脳梗塞になるんですね。脳梗塞の4割は原因が高血圧だそうですよ。他にも、脳出血とか、心不全とか、動脈瘤とかね、いろいろな病気の原因になるんですね。

A氏:なにも症状がありませんけどね。

医師:そうですね。高血圧は、何も感じない人がほとんどですね。頭が痛いとか、肩がこるとか、動悸がするとかおっしゃるかたもいらっしゃいますけどね。だから、サイレントキラーって呼ばれますね。

A氏:私の血圧が高そうだという理由が、何か他にあるんですか?

医師:ええ、実は、あなたの心電図が、血圧の高そうな心電図なんですよ。右側があなたの心電図で、左側のは私の心電図なんですね。私の心電図は、ほぼ正常なんです。心電図は、山のところや谷のところにそれぞれアルファベットで名前が付いているんです。P波、Q波、R波、S波、T波ってね。心電図ってのは12本の波で判断するんですけど、今は、V5ってところで比較してみますね。どうです、すこし違うでしょう?

A氏:ぜんぜん違うじゃないですか。特に、この、Rっていうんですか?この大きさが。

医師:そうですね。よくわかりましたね。あなたのR波(あーるは)は私のよりずっと大きいでしょう?R波が大きいことを「高電位差(こうでんいさ)」っていいましてね、これは心臓が作る電気信号が大きいことを示してるんですよ。心臓は、動脈に向かって血液を押し出すわけですが、血圧っていうのは動脈の血液にかかっている圧力そのものですね。だから、高血圧では、高い血圧に逆らって心臓が血液を送らなければならないわけで、そうすると、心臓の筋肉が厚くなっちゃうんです。心臓の筋肉が肥大するんですね。厚い筋肉は大きな電気信号を作るわけで、そういうときに、こういう心電図の異常がみられることがあるんです。だから、高血圧があるんじゃないかと思うんですよ。

A氏:なるほど。で、どうすればいいんです?

医師:そうですね、まずは、自分のおうちで、血圧を測ってみていただけますか?実は、病院で測る血圧はあまり当てにはなりませんでね。病院ではかるとき緊張して血圧が上がる方がいて白衣高血圧って呼ばれるのですが、逆に、病院の血圧よりも自分のうちで測った血圧の方が高いって人も多いんですよ。こういう人は仮面高血圧なんて呼ばれますね。特に、朝おきてすぐに測った血圧が高い人が多いんですよ。いわゆる早朝高血圧ですね。そういう人は、実際には夜中から高い人も多くてですね、夜中も高い血圧にさらされていると動脈硬化が進みやすいんです。だから、血圧計を買って測って記録してみてほしいんですよ。

A氏:血圧計は、どこで売ってるんですか?

医師:血圧計は、電気屋さんでいろいろなのが売ってますね。ただ、上腕、つまり、ひじと肩の間、で測るやつにしてくださいね。手首で測るのはどうも不正確になりやすいので、手首で測る血圧計を勧められても断って、上腕で測る血圧計を買ってくださいね。だいたい1万円前後ですかね。

A氏:どうやって測るんです?

医師:朝、起きてから1時間以内、おしっこをした後、朝食の前、っていうタイミングで測って欲しいんです。つまり、おきたらすぐってことですね。テーブルの前に座ってね、2,3分、安静にしてもらって、上腕に巻いてボタンを押すと血圧計が自動で測って表示してくれますから、それを記録して欲しいんです。横になったままで測ってはだめですよ。必ず座って測ってくださいね。できれば、寝る前にも測って欲しいですね。それをできれば、毎日1週間くらい連続で測って記録してもってきて欲しいんですよ。

A氏:何回測るんです?

医師:血圧は、毎回、一回ずつの測定でいいですよ。でも、もし何回も測っちゃったら、1回目はいくつ、2回目はいくつって、全部、記録してきてくださいね。

A氏:わかりました。

医師:それで、上の血圧の平均が135よりも高いか、あるいは、下の血圧の平均が85よりも高かったら高血圧ですね。

A氏:高かったらどうすればいいんです?

医師:高かったら記録を持って外来に来てください。すぐに治療が必要かどうか考えますから。

A氏:何科にかかればいいんですか?

医師:この病院ならまずは循環器科に来てください。他の病院の場合はいろいろですね。病院には受診相談の窓口がありますから、高血圧は何科にかかればいいかと、聞いてみるのが一番です。腎臓内科や、内分泌内科が担当していることも多いですね。

A氏:血圧が高いときに、何かできることはありますか?

医師:ええ、ありますよ。やっていただきたいのは、まずは、減塩食ですね。食塩を多く摂ると血液の量が増えるんですね。血管の体積は一定ですから、血液の量が増えれば血圧が上がるっていう理屈です。

A氏:なるほど。しょうゆや塩は控えてるつもりですけどね。

医師:気をつけてますか、えらいですね。ただ、知らぬうちに結構摂っちゃってるのが塩分でしてね、漬物はどうですか?うめぼしやたくあんは塩のかたまりのようなものですね。

A氏:食べますねえ。

医師:それから、加工食品には加工するときに食塩が多くつかわれちゃっているんですよ。ハム、ソーセージ、干物、かまぼこのようなものですね。手の加わった食品はたいがい塩が入っちゃってますね。豆腐と納豆は例外ですね。主食でもね、パンとかうどんには、生地に食塩が入っちゃいますからね。ごはんにはもちろん塩は入っていませんが、すしめしには入ってますね。すしめしは、ごはんに酢と砂糖と塩を混ぜて作るんですよ。あと、みそはどうしてもしょっぱいので、味噌汁は具沢山で作って1日1杯までにしたほうがいいですね。それから、最近、顆粒状になったダシが便利だからってよく使われますでしょ?あれは、実はおおよそ半分が食塩なんですよ。塩やしょうゆを使わないから塩分は大丈夫と思われるかもしれないんですが、加工食品の食塩と、塩やしょうゆ以外の調味料の食塩が意外と多いので困っちゃうんですね。減塩食のパンフレットがありますから参考にしてください。

A氏:そう言われると、たしかに、意外と摂ってるかもしれないですね。

医師:ええ、意外と摂ってるものなんですよ。かなり気をつけないと、なかなか減塩食は難しいんです。それから、タバコは吸わないんでしたものね。

A氏:ええ、やめました。

医師:お酒はどれくらい飲まれますか?

A氏:ビールで500mlくらいです。

医師:それくらいならまあいいですかね。じゃあ、血圧、測ってみてください。記録を持ってきて見せてください。循環器科の外来の予約をとってお帰りくださいね。

A氏:はいわかりました。測ってみましょう。さっそく電気屋に寄って帰ります。

2週間後、A氏は、循環器科の外来を訪れました。

医師:こんにちは。どうでしたか?家庭血圧は?

A氏:いやあ、びっくりしました。150を越えた血圧がバンバンでるんですよ。血圧計がおかしいんじゃないかと思って、うちのかみさんにも測らせたんですけど、かみさんの血圧は正常なんです。だから、血圧計はおかしくないんですよ。

医師:(メモを見ながら)あら、これはかなり高いですね。上の血圧を平均すると、160位ですね。下の血圧も平均で100近いですね。これは、さっそく治療が必要ですね。

A氏:ええ、よろしくお願いします。まだまだ、倒れるわけにはいかないんですよ。