コラム

「人間ドック」―それは「人間を重視」する医療システム

2009.11.01

副所長 三坂亮一

 人間ドックとは健康診断の一種で、多くの場合は病気の兆候が無い人々を対象としています。人間ドック専門の施設をはじめとして病院、診療所でも対応しています。診断対象となる疾患は①生活習慣病である心臓病、高血圧症、糖尿病、高コレステロール血症、肥満など、②悪性腫瘍(がん)、③脳の認知機能やホルモンバランスの機能異常、などが中心となります。
 すでにご存知のことと思いますが、ドック(英;dock)という言葉はもともと船の製造・修理・係船・荷役作業のため造られた設備や施設の総称です。
 その語源は明治・大正の某軍人が「人間も船と同じで時々ドックに入って検査しないといかん。」と言ったことによる、という説があります。
 日本では1934年(昭和9年)に、現在の東大第3病院で2人の政治家に、これまでとは異なる意味合いの精密検査が行われました。最初の頃は「短期入院精密身体検査」と呼ばれていたそうです。その後、1954年(昭和29年)7月12日に国立東京第一病院(現・国立国際医療センター)で短期入院検診が開始され、続いて聖路加病院でも行われるようになりました。この頃、メディアにより「人間ドック」と名付けられ、今日では一般に広く用いられています。現在では7月12日を記念し「人間ドックの日」とされています。
 さてアメリカでも一般的な健康診断(Annual Checkup/Medical Checkup)は存在します。human dry dock、complete medical checkupなどとも呼ばれているそうです。またannual check upにも受診者の希望によって半日コースや一日コースなどがあり検査の内容も変わります。しかし日本のような個人の健康について細かくチェックする人間ドックはアメリカ社会では浸透しておらず、格差社会の厳しい現実では人間ドックは富裕層の特権で、一般の人々はその恩恵を受けることは少ないようです。

 ところで先日、朝日新聞(2009年10月24日)に「人間を重視する」という記事が掲載されていました。そこには「資本主義対資本主義」(M.アルベール著)によるアングロサクソン型資本主義とライン型資本主義、およびそれぞれの特徴が紹介されていました。米国などのアングロサクソン型は個人の成功を重視し近視眼的であり、対するライン型としてドイツ、日本の資本主義の特長を「派手ではないが長期的にはアングロサクソン型をしのぐもの」と指摘しています。現在、米国経済がつまずき、日本もアングロサクソン化(米国化)してしまいましたが、今後はライン型の方向へ修正すること、すなわち長い目で見て良いパフォーマンスを生み出す「人間を重視する」面が必要とされる、と結ばれています。
 経済学については門外漢でありますが、健康管理についても同様に近視眼的な対応では健康は崩壊し、手遅れになってしまいます。病気の兆候が無い時から、個人個人に合った、将来を見据えた健康管理が必要です。「人間ドック」はこのようなニーズにこたえた「人間を重視」する医療システムと考えます。今後も皆様のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高めるため、皆様の健康と地域医療に貢献できることを念じてこの項を終わりたいと思います。