特徴
その1:胃がんの進み具合に応じて治療法を選択する!
胃の壁は,粘膜(M),粘膜下層(SM),筋層(MP),漿膜(S)で構成されていますが,胃がんは胃の内側の粘膜から発生し,徐々に胃の壁深くに進んでゆきます。そこで,がん細胞の達する深さを,粘膜,粘膜下層までのT1,筋層,漿膜までのT2,胃の外側表面にまで顔をだしたT3,さらに周囲の臓器まで直接入り込んだT4の 4 つに分類しています。この深さを深達度といいます。また,がん細胞は胃にとどまることなく転移しますが,その代表的な形式はリンパ節転移,肝臓転移,腹膜播種転移の 3 つです。そのうち,リンパ節転移は胃に接したリンパ節(N1),胃を栄養する血管に沿ったリンパ節(N2),胃から遠いリンパ節(N3)の 3 段階に分けられています。通常,これらの深達度,リンパ節転移の程度,さらに肝臓(H),腹膜(P),遠隔転移(M)の有無によって,胃がんの進行度は病期(Stage)I A,I B,II,III A,II IB,IV に分類されます。そして,各々の病期(Stage)に応じて,選択すべき治療法が示されています(表1)。
表1:日常診療におけるStage分類別の治療法の適応

その2:治療法を日常診療と臨床研究に大別する!
このガイドラインは,日常における標準的な治療を示し,臨床の現場の医師と患者様との意思疎通をより改善することも大きな目的にしています。しかし,標準的な治療を行っているだけでは胃がんの治療成績が今より格段に上がることはあり得ません。そこで,100%とは言えませんが,試みる価値があると判断された治療法は,臨床研究として記載されています。日々進歩する分野であり,担当医の十分な説明を条件に,積極的に取り入れることが勧められています。
それでは,具体的なガイドラインについて,日常診療を中心に,病期ごとの治療方針を解説したいと思います。
●病期(Stage)I A
日常診療では,内視鏡的粘膜切除(EMR)と切除範囲を小さくした縮小手術(リンパ節郭清の程度でA,Bに分類)が推奨されています。判断の基準は,壁深達度(粘膜or粘膜下層),大きさと組織型(分化型or未分化型)です。EMRで根治するためには,胃壁のがんを完全に切除することに加え,周囲に転移のないことが必要です。そのため,EMRは 2 cm 以下の分化型で潰瘍形成のない粘膜層にとどまるがん(粘膜がん)が適応とされています。しかし,EMRの手技が確立されていれば,2 cm を超えた分化型の粘膜内がんに対するEMRの成績は,QOLの点で手術より優れていることも事実です。こうした治療は臨床研究として位置づけられ,われわれの施設を含め多くの施設で積極的に行われています。そして,EMR適応外の粘膜がん,粘膜下層がんに対して縮小手術が推奨されています。臨床研究としては,機能の温存を目的とした迷走神経温存,幽門保存,腹腔鏡補助下手術などが挙げられています。今後,病期TAでは腹腔鏡補助下機能温存手術の増加が推測されます(表2)。なお,術後の補助化学療法は不要です。
表2:病期 I Aの治療方針
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●病期(Stage)I B
日常臨床では,縮小手術Bと定型手術が推奨されています。胃に接したリンパ節に転移がある症例では,大きさが 2 cm を超えた場合に定型手術が選択されています。しかし,深逹度が筋層に達する症例は,大きさに関係なく定型手術が必要とされています。
●病期(Stage)II
日常臨床では定型手術が推奨されています。臨床研究として,術後の補助化学療法などが挙げられています。
●病期(Stage)III A
日常臨床では,がんが周囲の臓器に入り込んだ場合(他臓器浸潤がん)を除き,定型手術が推奨されています。この他臓器浸潤がんでは,他臓器を合併して切除すること(拡大手術)で根治切除のできる場合もあり,ガイドラインでも認められました。一方,遠くのリンパ節まで郭清することや術前後の化学療法は,臨床研究として扱われています。
●病期(Stage)III B
病期III Aと同じく,他臓器浸潤がんに対する拡大手術以外は定型手術が推奨され,遠くのリンパ節の郭清や術前後の化学療法は臨床研究となっています。しかし,この病期になると,満足できる治療成績が得にくいため,根治切除を求め,より広い範囲のリンパ節郭清が行われる傾向があります。
●病期(Stage)IV
がんが相当進んだ状態で,多くの場合根治切除は不可能です。しかし,高度なリンパ節転移のある場合でも,拡大手術によって長期生存する症例がみられるため,拡大手術が日常診療に含まれています。さらに確実な治療法がないため,姑息手術,化学療法、緩和療法,放射線治療も日常診療の選択肢に挙げられています。特に,根治切除不可能と判断された症例の治療は,現在なお苦慮しているのが現状です。通常,一般状態が比較的良好で,肝・腎機能に大きな異常のない場合の第一選択は化学療法で,ガイドラインでも,抗癌剤を用いない対症療法群と化学療法群との比較から,化学療法の有用性に触れています。具体的な薬剤,投与法はガイドラインをご参照下さい。注意すべきは,患者様のQOLを低下させる緊急の症状がある場合です。狭窄症状に対するバイパス手術など,状態に応じた姑息手術を化学療法に優先させるべきと考えています(表3)。一般状態不良の場合,緩和医療の適応です。臨床研究として,免疫療法,温熱化学療法が挙げられています。最後になりますが,緩和医療はすべての領域のがんに関与する日常診療,とガイドラインに明記されています。この“症状の緩和”ということを常に念頭におき治療にあたることが重要と考えられます。
表3:病期 IVの治療方針
現在,とくに治療方針が多岐にわたっている病期I AとIVを中心に簡単に解説させていただきました。多少でもご参考にしていただければ幸いです。
<参考文献>日本胃癌学会編,胃癌治療ガイドライン(医師用).金原出版.2004.4 改訂第 2 版.
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