増加する冠動脈疾患

心臓は一生の間休むことなく働き続ける臓器です。そのため大量の酸素を消費し,それを供給するための大量の血液の供給を必要とします。この血液は,心臓の表面を走行する冠動脈という血管を通じて心臓の筋肉の隅々まで送り込まれます。
近年,心筋梗塞や狭心症などのいわゆる冠動脈疾患が増加しています。これは冠動脈の内部が狭くなったり閉塞したりして血液の供給が不十分になることによって発生する疾患ですが,生活習慣の変化によって動脈硬化やメタボリック症候群などの因子が増加しているのが原因と考えられています。

心臓CT検査と心臓カテーテル検査

心筋梗塞などのいわゆる冠動脈疾患の診断には,最も信頼できる検査方法として心臓カテーテルが用いられます。心臓カテーテル検査は,手首または足の付け根の動脈などから細いカテーテルという管を入れ,その先端を冠動脈の入り口まで進め,造影剤を流してX線で冠動脈の写真を動画像で撮影する検査です。時には,細い超音波(エコー)装置を冠動脈の中に入れて,冠動脈の壁の状態を確認することもあります。
 
この検査は動脈にカテーテルを入れるため,ときに合併症が起きることがあります。検査の費用や手間,時間,X線の被曝などの問題もあります。
 
近年,カテーテルを使わなくても冠動脈の画像を撮影することができる心臓CT検査が広く行われるようになっています。造影剤は腕の静脈から入れるだけですみますし,検査にかかる時間も短く,心臓カテーテル検査に比べて負担が少ないのが特徴です。検査の信頼性もカテーテルとほぼ同程度まで向上しました。冠動脈の内腔の大きさの評価だけでなく,動脈硬化による冠動脈壁の石灰化なども評価できます。  
  心臓CT検査 心臓カテーテル検査
入院 入院不要
(日帰り)
通常1泊
(術後安静が必要)
造影方法 腕の静脈 手首または足の動脈
検査時間 およそ10分 およそ2時間弱

 

 

 

 



心臓CT検査(左)で見える冠動脈壁の石灰化(→)が,心臓カテーテル検査(右)では見えない。

MDCTの利点

この心臓CT検査の信頼性の向上に貢献したのが,MDCT(multi-detector-row CT)と呼ばれる新しい方式のCT画像診断装置です。従来のCTはX線の検出器が弧状に1列に並んでいるだけでしたが,MDCTではこの検出器が複数列並んでいるため,同時に複数の場所のデータを収集して撮影ができます。同時に複数のデータを集めるため,撮影時間が短くなり,撮影のために息を止めていただく時間も短くなりました。また,これまでよりもより広い範囲のデータを収集することができるようになったので,冠動脈バイパスの術後などの検査で心臓の周囲の血管も同時に評価できるようになりました。

 
MDCTによる心臓の検査の場合,心電図を計測して心臓の動きにあわせながらデータを収集することで,心臓の膨らんでいるとき(拡張期)や縮んでいるとき(収縮期)のデータを一気に得ることができます。冠動脈の評価だけでなく,心臓の容積の変化(駆出率)などの心機能を評価することが可能です。
 
MDCTはその検出器の数が多いほど高性能となりより細かく大量のデータを収集することができ,楽に検査が終わります。当院では2006年に64列のMDCTを導入して心臓CT 検査などを行ってきましたが,2018年からは256列の検出器を持つMDCT(GE社 Revolution CT)を導入し,心臓CT検査に使用しています。

心臓CT検査に有用なCT装置

当院のMDCTは,心臓CT検査において強みとなるいくつかの特徴を有しています。その一つが256列の検出器であり,1回転で心臓全体の撮影を行うことができます。これにより,まず撮影時間が短くなります。さらに,1心拍分のデータで画像を作成できるため,これまでのCT装置で問題となっていた心拍の変動が大きい患者様においての各心拍の間の画像データの位置ずれが生じません。これまでは評価が難しかった不整脈の患者様においても,良好な検査が可能となります。
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不整脈の同一症例において,従来装置(左)では心拍間での位置ずれが生じ、冠動脈が部分的に途切れて見える(→)が、現装置(右)ではそのような位置ずれが生じていない。
 
心臓を栄養する冠動脈は,直径2~4mmの非常に細い血管です。これを評価するためには,できるだけ細かいものを見分けることができるCT装置の性能が必要です。当院のMDCTは,通常モードと高分解能モードの撮影が選択可能であり,心臓CT検査を高分解能モードで行うことにより,これまでより冠動脈内のより詳細な評価が可能です。
 
心臓は絶えず動き続ける臓器です。そのため,心臓CT検査では動きの小さい拡張期や収縮期を狙って,できるだけ動きによるブレがない画像を取得しています。しかし,心拍が速くなればなるほど動きが小さい時間が短くなっていくため,画像にブレが生じやすくなり診断が難しくなります。当院のMDCTには,心臓の動きによるブレを補正するソフトウエア(GE社 SnapShot Freeze)が搭載されており,たとえ撮影時の画像にブレが生じていても,あたかも静止したような画像を得ることができます。
 
心臓CT検査でも心臓カテーテル検査と同様にX線を使用するため,被曝を抑えることも重要です。しかし,X線の量を少なくしすぎると,画像にノイズが多く生じてしまい,診断に影響が出てしまいます。当院のMDCTは,AI(人工知能)を利用した先端の被曝低減ソフトウエア(GE社 TrueFiderity)を搭載しています。このソフトウエアは,X線の量が少なくノイズの多い画像でも, X線を多く使用した画像に近づけるよう人工知能を用いて計算を行います。これにより,画像の質を保ちながら被曝を低減することが可能です。

総合的な臨床チームワーク

心臓CT検査は,単に高性能な機器を導入すれば精度が上がるわけではありません。適する検査の方法を研究しつつ,得られた大量の検査データを適切に解析する必要があります。また,造影剤などの薬品やX線を使用する検査ですから,安全な検査を行うための体制づくりも必要です。当院では医師,放射線技師,看護師が連携して高度で安全な検査を受けていただけます。
 
心臓の冠動脈疾患の診断と治療は心臓CT検査のみでは終わりません。当院では必要に応じて心臓MRI,心臓カテーテル検査などの検査を追加することができます。また,冠動脈の血管内治療(経皮的冠動脈形成術やステント内挿術など)や冠動脈バイパス手術などの治療につなげることができます。現在,心臓CT検査は心臓血管外科,内科・心臓血管診療部,放射線科が連携して行っており,診断と治療が密接に連携した高度な医療を受けることが可能です。